「できるだけ早く復旧させる」ことが事業継続マネジメントの目的ではない

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より早く復旧させるには、より多くのお金がかかる

事故や災害で事業活動が中断されてしまった場合(例えば製造業であれば工場で製品を作れなくなった、など)、「一日でも早く復旧させたい」と誰もが考えると思います。事業中断が一週間、二週間と続いた場合に、損害や各方面への悪影響がどれだけ大きくなるかを考えると、少しでも早く事業活動を元通りに再開させたい、と思わずにはいられないでしょう。

しかしながら、事業活動をより早く再開させようと思ったら、それなりのお金が必要になります。例えば、工場が大規模な地震や火災などで致命的な被害を被った場合でも、「一日で」製品の生産を再開させたいとしたら、どのような準備が必要になるでしょうか?同じような設備を有する工場をもう一ヶ所建設しておかないと無理かもしれません。もちろんそのためには膨大な設備投資が必要になります。

ところが、もし「一ヶ月以内で」、「三ヶ月以内で」、「半年以内で」再開させたいという条件だったらどうでしょうか?御社ならどのような方法で実現できそうか、想像してみてください。「一日で」再開させるための準備に比べたら、より少ない投資で済むのではないでしょうか。

 

BCM の目的は投資対効果のバランスを最適に保つこと

一般論として、より早く事業を再開・復旧させようと思ったら、事前の投資や事後の費用により多くのお金が必要になりますが、もし事業継続のための投資にお金をかけすぎて、災害が発生する前に経営状況が悪化してしまっては本末転倒です。したがって事業継続マネジメント(BCM)においては、どのくらいの期間で事業を再開・復旧させるのが自社にとってちょうど良いかを見極めていくことが重要です。

もし仮に、一ヶ月以内に事業を再開できれば十分だという会社があったとしたら、一週間以内に再開できるような対策方法はその会社にとっては過剰です。BCM の目的は、自社にとって必要な事業継続を、お金をかけすぎずに実現できるよう、事業継続に関する投資対効果のバランスを最適に保つことなのです。

 

これは国際的に受け入れられている考え方

ちなみに前述のような考え方は国際的に合意され、受け入れられているものです。

BCM に関して「ISO 22301」という国際規格があります。これは BCM に関する用語や概念、方法論などについて、世界中のエキスパートが議論を重ねて作られた国際規格で、日本ではこの内容を忠実に和訳したものが、日本産業規格「JIS Q 22301」として発行されています。この中で「事業継続」という用語は次のように定義されています。

事業継続(business continuity)

事業の中断・阻害を受けている間に、あらかじめ定められた範囲で、許容できる時間枠内に、製品及びサービスを提供し続ける組織の実現能力 (出典:JIS Q 22301:2020/下線は筆者)

これをご覧いただければ分かるとおり、「できるだけ早く」とは書かれていません。「あらかじめ定められた範囲で、許容できる時間枠内に」再開できるための能力だと定義されています。

そして、この範囲をどのように定めるか、自社にとって許容できる時間枠というのがどのくらいなのかを見極めた上で、事業継続のための能力が自社にとって最適な状態になるようマネジメントすることが「事業継続マネジメント」ということになります。

ここでいう「範囲」や「許容できる時間枠」については、事業影響度分析というプロセスの中で見極めていきます。これについては別の記事であらためて説明していければと思いますが、まずは「闇雲に早く再開・復旧させるのが良いとは限らない」ということを覚えておいていただければと思います。

 

合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

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