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他者の力も借りて合理的な事業継続を実現しよう

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本稿は、拙書『困難な時代でも企業を存続させる!! 「事業継続マネジメント」実践ガイド』(セルバ出版)の一部に手を加えたものです。

倒産リスクの高い中小企業の BCM 戦略

頻発する大規模災害の例を見るごとに、もし自社があのような災害で被災したら企業の存続にかかわるのではないかと懸念されている方も少なくないでしょう。

特に、中小企業の皆様におかれましては、災害で倒産・廃業に追い込まれるリスクを切実に感じておられることかと思います。実際、過去に発生した大規模災害の影響で倒産した企業の大半は中小企業だったという現実もあります。多くの人的資源を抱えており、財務基盤もしっかりしている大企業に比べれば、一般的には中小企業のほうが倒産リスクがより高いと考えられます。

このような厳しい現実を踏まえつつ、それでも諦めずに大規模災害から生き残る可能性を見出すために、いかにうまく他者の力を借りて事業継続を実現するかという観点も、BCM における有効な戦略として考えていただきたいと思います。

他の企業が持つ資源を活用する

売上収入が途絶えて資金が回らなくなれば、最終的には倒産に追い込まれます。資金繰りに関しては、損害保険や融資などといった財務的な対策も必要ですが、BCM の観点からは、いかに事業活動を再開させて売上を生み出すかを考える必要があります。

災害によって事業中断が発生してしまうのは、事業活動に必要な「資源」が、破損や流失などによって使えなくなるからです。ここでいう「資源」には、事業活動のために必要な従業員(人的資源)、設備や装置、建物、原材料や部品、商品在庫などが含まれます。そして、BCM において考えることを大雑把にまとめると、災害などで使えなくなってしまった資源の代わりをどうやって用意するか、ということに尽きます。

これが特に中小企業だと、もともと最小限の資源しか保有しておらず、代わりの資源を用意することが難しい場合が多いので、事業活動を再開することが難しく、結果的に倒産に至ることが多いということです。

そこで、事業中断に陥った後に、いかに他者の資源を利用するかということも含めて考えていただきたいと思います。具体的には、同じような資源を持っている企業の協力を得るということです。

既にこれを実践された事例もあります。2011 年の東日本大震災では、宮城県の廃棄物リサイクル事業者が津波で被災し、同社唯一の事業所が壊滅的な被害を受けました。同社の主要な事業の 1 つは、顧客の工場から廃油を回収し、これを再生して燃料として使える「再生重油」を精製し、販売する事業ですが、精製に必要な設備の大半を津波で失いました。

そこで同社は、廃油精製処理を他県の同業者に一時的に委託することで、部分的ではありますが、被災後 1 週間で事業再開を果たしました(注 1)。もちろん、業務委託費を支払う必要がありますが、それを上回る価格で再生重油を販売できたため、これは同社にとって被災直後の貴重な収益源となりました。

同社がこのような短期間で業務委託できたのは、委託先の同業者との間で被災前から申し合わせができていたからです。契約書の締結までには至っていなかったようですが、もしどちらか一方が災害などで被災したらお互いに助け合うことを、災害が発生する前から申し合わせていたそうです。

もし、被災した後に、災害発生後の混乱した状況のなかで委託先を探して交渉していたら、このような短期間での事業再開はできなかったでしょう。

 

競合する企業の協力を得られるか?

読者の皆様の中には、災害発生前の平常時からこのような協力関係をつくっておくのは難しいとお感じになった方も多いと思います。自社の業務の一部を委託できるような相手とは、自社と同じような資源やノウハウを持っている企業であり、その多くは競合関係にあると思われるからです。

災害発生後とはいえ、競合他社に業務を委託したら、自社のノウハウを盗まれたり、自社の顧客が横取りされたりするかもしれません。そこで、このようなリスクをできるだけ小さくしながら、被災時に助け合うことができるような関係づくりを実現した例をご紹介します。

神奈川県メッキ工業組合と新潟県鍍金工業組合は、大規模災害時に両組合の企業どうしで代替生産などの相互連携を行う協定を締結しました(注 2)。この例では、被災した企業から一時的に業務を受託する場合の品質保証、品物の所有権の帰属、秘密保持、お互いの取引先への営業活動および受注の禁止などを含む契約書が用意されており、これに基づいて委託側と受託側との間で契約を締結することになっています(注 3)。

また、経済産業省の中部経済産業局が 2012 年に発表した『地域連携 BCP 策定ポイント集 工業団地編』には、工業団地など地域内の企業どうしが連携して事業継続に取り組まれている事例が多数掲載されています(注 4)。

競合他社に助けを請うことに対しては、ためらいを感じられるかも知れませんが、大規模災害から生き残るために、あらゆる可能性を模索していただきたいと思います。

 

(注)

  1. 新建新聞社「リスク対策.com」Web サイト「津波被害から 1 週間で事業再開 – 工場壊滅の被害を乗り切る」(https://www.risktaisaku.com/articles/-/99)(アクセス日:2021 年 2 月 28 日)
  2. 中野明安「緊急事態措置と企業の事業継続」『NBL』No. 1169, p.8-12, https://www.shojihomu.co.jp/documents/10452/11653592/NBL1169-008.pdf (アクセス日:2021 年 3 月 4 日)
  3. 「契約文書に込められた想い」『リスク対策.com』vol. 16, 2009/11, p.26-29
  4. https://www.chubu.meti.go.jp/b52bousai/data/BCP_point.pdf (アクセス日:2021 年 3 月 4 日)

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本稿は、拙書『困難な時代でも企業を存続させる!! 「事業継続マネジメント」実践ガイド』(セルバ出版)の一部に手を加えたものです。是非拙書もお読みいただければ幸いです。

合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

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「事業継続マネジメント(BCM)は中小企業には難しい」というのは誤解です

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本稿は、拙書『困難な時代でも企業を存続させる!! 「事業継続マネジメント」実践ガイド』(セルバ出版)の一部に手を加えたものです。

これまでのコンサルタントとしての経験の中で、中小企業の方々と事業継続マネジメントに関するお話をする機会が数多くありましたが、そのような場で「大企業のように人もお金も余裕のない中小企業にとっては、BCM に取り組むのは難しい」という声をよく聞きます。

ところが、これには典型的な誤解が 2 つ含まれています。

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大企業には BCP に取り組む余裕がある?

1 つめの誤解は、「大企業には BCM に取り組む余裕がある」という点です。確かに大企業は多数の従業員を抱えていますが、一般的に企業としては収益を生む業務により多くの人員を投入したいため、総務や人事、経理などのいわゆる間接部門は非常に少ない人数で回している企業が多いものです。そのような状況では、BCM に関連する業務のために割ける人数も限定的になります。

私自身がこれまでにコンサルティングで関わってきた大企業でも、お客様側のご担当者はほぼ例外なく、他の業務のために多忙な中で BCM に取り組んでおられました。これはお金に関しても同様で、BCM のために十分な予算を確保しておられる企業は決して多くありません。

実は中小企業のほうが有利なこともある

2 つめの誤解は、「中小企業が BCP を作ることは大企業に比べて難しい」と思われている点です。実際は全く逆で、BCP を作るためのプロセスにおいては、大企業の方が作業量も多くなりますし難易度も高くなります。

詳しくは別の記事として後日まとめたいと思いますが、BCP を作るためには自社の製品またはサービスの提供が中断した場合の影響度合いを分析したり、事業再開における優先順位を決めたりする必要があります。また重要な経営資源に対するリスクアセスメントも必要です。大企業でこれらを実施する場合、多くの部署から様々な情報を集めて分析したり、意見を聞いたり、場合によっては部門間での調整が必要になったりするため、企業の規模などによっては数ヵ月かかることも珍しくありません。

一方で事業内容がシンプルな中小企業であれば、経営者を中心に主要なメンバーが集まって議論すれば、非常に短期間でこれらを済ませることができます。私自身の経験でも、前述のプロセスを 1 日で完了できた例が何度もあります。この点においてはむしろ中小企業の方が有利なのです。

なお、どこかから BCP の雛形を入手し、適当に自社の情報を書き込んで、とりあえず形式的にでも BCP を作ってしまうという方法もあります(そんないい加減な方法を勧めるのはいかがなものか?というご意見もあろうかと思いますが、この点については後日、別の記事で述べたいと思います)。この場合、前述のようなプロセスは必要ありませんので、BCP 作成の作業量や難易度は大企業でも中小企業でも同じです。しかしながら、大企業の経営層がこのような形式だけの文書を承認してくれるとは考えにくいので、このような観点からも中小企業の方が BCP を作りやすいと言えます。

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特に中小企業の皆様におかれましては、このような誤解を払拭していただき、できるところから少しずつでも BCM に取り組んでいただければと思います。

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本稿は、拙書『困難な時代でも企業を存続させる!! 「事業継続マネジメント」実践ガイド』(セルバ出版)の一部に手を加えたものです。是非拙書もお読みいただければ幸いです。


合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

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寄稿> 中小企業のレジリエンスと競争力に影響を与える因子は何か?

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リスク対策.com Web サイトに連載記事を掲載していただきました。

【海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!】
第 121 回:中小企業のレジリエンスと競争力に影響を与える因子は何か?
Gunasekaran 他 / Resilience and competitiveness of small and medium size enterprises: an empirical research

マサチューセッツ大学ダートマス校の研究者3人による論文の紹介です。

論文の前半では他の研究者による論文のレビュー結果から、中小企業のレジリエンスと競争力に影響を及ぼすと考えられる因子を抽出した上で、後半部分ではこれを検証するために地元の中小企業を対象として実施したアンケート調査の結果を報告しています。

下記 URL をクリックしてお読みいただければ幸いです。
https://office-src.biz/31ocTu7

 

合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

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YouTube> 中小企業にとって BCM は難しいのか?

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YouTube 「事業継続マネジメントについて語りつくすチャンネル」にて、「第 5 回: 中小企業にとって BCM は難しいのか?」を公開させていただきました。

中小企業の皆様が、事業継続への取り組みを考えていただけるきっかけになればと思います。

 

合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

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四国地方で「事業継続力強化計画」の認定件数が伸びている

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経済産業省四国経済産業局からの 2019 年 12 月 18 日付での発表によると、中小企業等経営強化法に基づく「事業継続力強化計画」の、四国経済産業局管内での認定件数が、11 月末の時点で 203 件となったそうです。

四国経済産業局:「事業継続力強化計画」を11月末までに203件認定しました
https://www.shikoku.meti.go.jp/01_releases/2019/12/20191218b/20191218b.html

ちなみに 10 月末までに既に認定済みだった件数が 162 件、11 月の認定件数が 41 件だそうです。

認定事業者数や認定事業者のリストは中小企業庁の Web サイトで公開されており、下記 URL にて確認できます。
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/keizokuryoku.htm#jigyousya

ここでは都道府県別の件数まで公開されているので、中小企業庁から公開されているデータを利用して認定率(認定件数 ÷ 中小企業数)を出してみたところ、次の表のようになり、四国がトップとなりました。

地域 中小企業数 認定件数 認定率
北海道 141,386 86 0.061%
東北 266,834 122 0.046%
関東 1,387,183 1,349 0.097%
中部 405,570 495 0.122%
近畿 624,356 854 0.137%
中国 212,489 324 0.152%
四国 124,725 203 0.163%
九州 368,528 454 0.123%
沖縄 47,105 19 0.040%

中小企業数は中小企業庁の Web サイトで公開されている、2016 年 6 月時点でのデータ(これが現状最新)に基づいており、時期がずれているため、上の表における「認定率」はさほど正確な値とは言えませんが、多少の誤差を考慮しても四国がトップクラスであると言えるでしょう。

もちろん認定件数だけで、その地域における災害対策が進んでいる(いない)とか、意識が高い(低い)などとは言えませんが、少なくとも政府が推進している普及策がどのくらい浸透しているかを測る目安にはなるのではないかと思います。

下記の「参考」でお示ししているように、事業継続力強化計画の普及には大手損保会社が協力していますので、四国地方の損保会社が営業活動を頑張った成果なのかも知れません。いずれにしても、これがどのくらい普及していくかは、今後も注目したいと思います。

(参考)

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千葉銀行、京葉銀行、千葉興業銀行が「ちば災害復興支援ファンド」(仮称)を準備中

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千葉銀行、京葉銀行、千葉興業銀行の3行が、今年の台風 15 号、19 号、21 号で被災した企業を支援するために、「ちば災害復興支援ファンド」の設立を準備中であることを発表しました。各行からの公式リリースは次の通りです(当然ながら全て内容は全く同じです)。

現状は「設立に向けた具体的な検討を開始しました」という慎重な表現にはなっていますが、3 行から正式にアナウンスされたということは、おそらく実現の可能性は高いのだろうと思います。

組成規模は 5 億円で、2020 年 1 月の設立を目指しているとの事です。復旧費用や運転資金などで困っている企業はまだまだ多いと思いますので、ぜひ実現していただきたいと思います。

一般的に、災害による直接的な被害や事業中断による間接的な被害(機会損失を含む)に対して、財務面の対策を事前に準備しておくのは、一般企業にとっては容易ではありません。したがってこのような形で事後に支援策が提供されるか、それをうまく活用できるかどうかが非常に重要になります。今後各地で起こるであろう様々な大規模災害に対しても、このような支援策が迅速に検討され、提供されることを期待したいと思います。

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大阪の高石商工会議所が「BCP(事業継続計画)ワークショップ」開催

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2019 年 12 月 11 日(水)13:00 から 16:30 まで、高石商工会議所で「BCP(事業継続計画)ワークショップ」が開催されるそうです。下記 URL で募集チラシをご覧いただけます。
https://www.tadaoka.or.jp/seminer/seminar_takaishi20191211.pdf

泉大津商工会議所和泉商工会議所忠岡町商工会の共催となっています。)

講師は「東京海上日動火災保険株式会社」と書かれていますが、実際にはその子会社である「東京海上日動リスクコンサルティング」のコンサルタントが担当されるのではないかと思います。

チラシを見ると「BCP が僅か『半日』で策定できるようになる!」と書かれています。これをご覧になった方々の中には、「本当に半日でできるのか?」と疑いの目で見られる方も少なくないと思います。しかし、BCP の重要なポイントを押さえていただければ、半日で BCP の基本的な部分を固めることは十分可能ですし、私自身もそのような仕事をこれまで何度もさせていただきました。

特に対象が中小企業で、経営者(もしくは自社の事業状況を概ね把握されている幹部社員の方)が参画してくだされば、企業の実態に合わせて事業影響度分析(Business Impact Analysis:BIA)の手順を若干簡素化して実施することで、その企業における事業再開や復旧に取り組む上でのキモが分かります。その結果を踏まえて検討すれば、その企業にとって現実的かつ実用的な BCP の基本部分を半日程度で作ることができます(詳細な手順の文書化には別途時間がかかりますが)。

したがって、このワークショップが具体的にどのような内容になるのかは分かりませんが、「BCP が僅か『半日』で策定できるようになる!」というのも十分現実的な範囲ではないかと思います。

しかしながら本件に関しては、机上シミュレーション形式の体験型で BCP の必要性について学ぶというアクティビティまで含まれていますので、結構欲張りな企画のように思います。担当されるコンサルタントは結構大変なのではないかと思いますが、このような企画が全国各地で行われ、BCM に取り組む企業が少しでも増えると良いのではないかと思います。

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日本商工会議所 LOBO 調査における BCP 策定状況の調査結果(2019 年 9 月)

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日本商工会議所が実施している早期景気観測調査(LOBO 調査)の 2019 年 9 月調査(9 月 30 日公表)では、「付帯調査テーマ」のひとつが「事業継続計画(BCP)の策定状況」となっていました。調査結果は下記 URL に掲載されています。

https://cci-lobo.jcci.or.jp/wp-content/uploads/2019/09/LOBO201909-1.pdf

BCP の策定状況に関する調査結果は上記リンク先にある PDF ファイルの 3 ページ目(表紙を除くと 2 ページ目)に記載されており、BCP を策定済みの企業は 14.5% となっています。

調査対象は日本商工会議所の会員企業であり、かつ日本商工会議所の会員企業の約 9 割が中小企業であることから、この調査結果には日本の中小企業における実態が反映されていると考えて良いでしょう。

先日掲載した帝国データバンク千葉支店による調査では、千葉県内の企業における BCP 策定率が 14.9% との事でしたが、これと非常に近い数字となっています。

あくまでも個人的な意見ですが、内閣府の調査による数字よりもこれらの数字のほうが日本企業における BCP の実態に近いのではないかと思います。もちろん内閣府の調査が信頼できないという意味ではなく、内閣府の調査の方が調査対象における大企業の割合が多いので、調査結果も大企業寄りになっているのではないか、という事です。

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寄稿> 『東商新聞』連載「BCP 中小企業の事業継続マネジメント」

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かつて東京商工会議所の機関誌『東商新聞』に掲載していただいた、「BCP 中小企業の事業継続マネジメント」という連載記事が、東京商工会議所の Web サイトで公開されています。

具体的な手順よりも、BCM に取り組む考え方を知っていただくことに重きをおいて書かせていただきました。参考にしていただければ幸いです。

第1回  BCP作成は難しいとお考えの皆様へ (2015年1月20日号)

第2回 事業継続の「骨子」について議論しましょう (2015年2月10日号)

第3回  災害発生後の資金繰りを検討しましょう (2015年2月20日号)

第4回  事例に学ぶ事業継続マネジメントの要諦 (2015年3月10日号)

第5回  「標準化」で事業継続力を高める (2015年3月20日号)

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