書籍紹介『「感染症パニック」を防げ!~リスク・コミュニケーション入門~』岩田健太郎(著)

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著者の岩田先生が世間一般での知名度が急上昇したのは、2020 年 2 月にクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」にて新型コロナウィルスの集団感染が発生した時であったと思います(私もこの時に岩田先生のことを知りました)。岩田先生がクルーズ船内の状況を YouTube に投稿して話題になった後に、岩田先生が多くの著書を出されていることを知り、興味をもって読み始めたうちの一冊がこちらの本です。

タイトルに「感染症パニック」を防げ!と謳われてはいますが、本書に書かれている内容の多くは感染症対策に限らず、多くの分野におけるリスク・コミュニケーションに通用する話だと思います。

これまで私自身もリスク・コミュニケーションに関しては多くの書籍などで勉強してきましたが、それでも本書には私の知らない概念や考え方、手法などが含まれており、私自身がまだまだ勉強不足だったことを再認識する機会にもなりました。

例えば、リスク・コミュニケーションを「クライシス・コミュニケーション」、「コンセンサス・コミュニケーション」、「ケア・コミュニケーション」の 3 つに分類するという考え方は本書を読むまで知りませんでした(クライシス・コミュニケーションだけは従前から使っていました)。

また、「社会構成主義モデル」という用語も知りませんでした。これは著者によると「ある方法論と価値観でものごとをや方針を勝手に決めて、それを押し付けるのはよくない」という考え方なのだそうで、「多様な価値観を大切にし、各人の感情面や心情に配慮しながら」リスク・コミュニケーションをとるべきであると著者は説いています。これに関しても本書では分かりやすい例とともに解説されています。

本書は 2 章構成になっていて、分量的には第 1 章が 8 割近くを占めるのですが、第 2 章の「感染症におけるリスク・コミュニケーション《実践編》」では、実際に感染の流行が発生したエボラ出血熱、西ナイル熱、炭疽菌(バイオテロ)、2003 年の SARS、2009 年の新型インフルエンザ、2014 年のデング熱を題材として、判明した情報をどのようにまとめ、伝えていくかが具体的に解説されています。岩田先生ご自身の経験(失敗も含めて)に基づいて書かれた生々しい部分もあり、感染症対策におけるリスク・コミュニケーションの難しさがよく分かります。

そしてこの第 2 章に関しても、題材を他の分野における事象(例えば企業における不祥事など)に置き換えてみることで、どのようにリスク・コミュニケーションに取り組むべきかを考えるトレーニングになると思います。そういう観点も含めて、医学分野に限らず幅広い分野の実務者の方々にとって役立つ本なのではないでしょうか。

 

【書籍情報】

岩田健太郎(2014)『「感染症パニック」を防げ!~リスク・コミュニケーション入門~』光文社新書

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合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

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