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書籍『「事業継続マネジメント」実践ガイド』刊行 1 周年

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2022 年 6 月に初めての単著『困難な時代でも企業を存続させる !!「事業継続マネジメント」実践ガイド』をセルバ出版様から刊行させていただいてから、早くも 1 年が過ぎました。

この間、kindle 版を含めて多くの皆様にお読みいただき、多くのご感想もいただきました。また弊社のお客様で、100 冊まとめてご購入され、協力会社に配付してくださった企業もあり、大変感謝しております。お読みいただいた皆様、誠にありがとうございました。

本書は中小企業を主な対象として、事業継続マネジメント(BCM)に自力で取り組んでいただけるよう、実践的な手法をできるだけ詳しく記述しています。また書籍全体の構成を、国際的に活用されている規格やガイドライン(注1)に合わせ、BCM に必要なノウハウを網羅的に記述してあります。

今後もより多くの皆様にご活用いただき、外部のコンサルタントに頼りすぎずに(注2)BCM に取り組んでいただければと思います。

 

【注釈】

  1. 国際規格 ISO 22301/22313、および BCI Good Practice Guidelines を採用しています。
  2. 私自身もコンサルタントですので、必要に応じてコンサルタントを活用することもご検討いただきたいのですが、企業側で基本的な知識がなければ、コンサルタントの言いなりになってしまう可能性もあります。そのような事態を防ぐために、一時的にコンサルタントの助力を使う場合でも、ある程度の知識は備えておくことをお勧めします。

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事業継続マネジメント(BCM)に関するガイドブックを出版させていただきました。特に中小企業の皆様が自力でに取り組まれることを想定して執筆させていただきましたので、お役立ていただければ幸いです

田代邦幸(著)『困難な時代でも企業を存続させる!! 「事業継続マネジメント」実践ガイド』(セルバ出版)1,980 円(税込)

合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

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拙書『「事業継続マネジメント」実践ガイド』電子書籍化

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拙書『困難な時代でも企業を存続させる!!「事業継続マネジメント」実践ガイド』(セルバ出版)が kindle で読めるようになりました。

私自身も入手しましたが、やはり実用書は電子書籍が便利ですね。持ち歩きが楽ですし、検索もできます。

実は著者本人がいちばん助かっているという可能性もありますが、ぜひ多くの皆様にご活用いただければと思います。

 

田代邦幸(著)『困難な時代でも企業を存続させる!! 「事業継続マネジメント」実践ガイド』(セルバ出版)1,980 円(税込)

合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

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書籍紹介『ISO 22301:2019 事業継続マネジメントシステム 要求事項の解説』(中島一郎・岡部紳一・渡辺研司)

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まず重要な前提として、この本が「ISO 22301 による認証取得のためだけの本ではない」という点は強調しておきたいと思います。

日本における非常に残念な誤解のひとつが、「マネジメントシステム規格は認証取得のためだけに使われるものだ」というような思い込みです。実際には、規格では国際的に合意された用語の定義や、取り組み方の枠組みなどが提供されており、認証取得するか否かにかかわらず、広く活用されるべきものです(実際に諸外国ではそのように活用されています)。

ところが日本では、前述のような誤解が根強く残っているために、認証取得を目指さない人や組織は規格を読まないし、規格に関連する参考書も読まない、という状況が続いています。

この問題については下の動画でも語っておりますので、お時間がありましたらご視聴いただければ幸いです(写真をクリックすると YouTube のサイトが開きます)。

さて、前置きが長くなりましたが、今回紹介させていただく本は、JIS(日本産業規格)のマネジメントシステム規格に合わせて、日本規格協会から出版されている一連の書籍群のひとつです。私自身、これ以外にリスクマネジメント(JIS Q 31000)および情報セキュリティ(JIS Q 27001)など、いくつかの書籍を持っていますが、いずれも規格の制定に関わった方々を著者に迎えて作られているので、これらの規格に関わる仕事をする人にとっては必読本となっています。

本稿で紹介させていただく本に関しても、3 名の著者はいずれも JIS Q 22301 素案作成委員会のメンバーであり(委員長は渡辺先生)、また JIS 規格の元となっている ISO 規格を制定するための委員会にも参加されているので、この規格のことを最も熟知されている方々と言えます。

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【書籍情報】

中島一郎・岡部紳一・渡辺研司(2021)『ISO 22301:2019 (JIS Q 22301:2020) 事業継続マネジメントシステム 要求事項の解説』日本規格協会

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本書はもともと ISO 22301 の 2012 年版に合わせて出版されていましたが、ISO 22301 が改訂されて 2019 年版に、これを元に制定された JIS Q 22301 も改訂されて 2020 年版となったことを踏まえて、新たに出版されました。

いま私の手元に新旧 2 冊が並んでいますが、本の厚みが概ね 3 割増くらいになっています(価格は約 4 割増)。

(左が旧版、右が新版)

本来、規格というものは、規格本文だけ読めば内容を正しく理解できるように書かれているべきだと思いますが、実際にはなかなか難しいものがあります。しかも、もともと英語で書かれている ISO 規格を JIS 化する際に、和訳によって理解しにくくなっている部分もあります(これは規格の翻訳の質が低いという意味ではなく、翻訳によって意味やニュアンスなどが伝わりにくい部分もあるので、意味が 100% 伝わる翻訳が不可能だという意味です)。

本書では、規格の開発に関わっていた著者らが、そのような部分を(ある程度の背景事情も含めて)丁寧に解説してくださっているので、本来この規格が何を求めているのかを理解する上で非常に有用です。

そして、「本来この規格が何を求めているのか」≒「効果的に事業継続マネジメントに取り組むためには何が必要か」という関係が成り立ちますので、BCMS の認証取得を目指すかどうかは関係なく、事業継続マネジメントに取り組む全ての方々にとって、本書は間違いなく役に立ちます。

また、第 4 章は「ISO 22301 についての Q&A」となっており、日本で多くの方々が抱いていると思われる 16 の疑問に対して、19 ページを割いて回答されています。これらも事業継続マネジメントに対する理解を深める上で大変有用だと思います。企業をはじめとして多くの皆様に活用していただきたい書籍です。

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事業継続マネジメント(BCM)に関するガイドブックを出版させていただきました。特に中小企業の皆様が自力でに取り組まれることを想定して執筆させていただきましたので、お役立ていただければ幸いです

田代邦幸(著)『困難な時代でも企業を存続させる!! 「事業継続マネジメント」実践ガイド』(セルバ出版)1,980 円(税込)

合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

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「はじめに」全文公開(「事業継続マネジメント」実践ガイド)

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先日出版された著書『困難な時代でも企業を存続させる!! 「事業継続マネジメント」実践ガイド』(セルバ出版)の「はじめに」(前書き)を全文公開させていただきます。ぜひ参考にしていただき、役に立つとお感じになられたらぜひご購入いただければ幸いです。


本書をお手にとっていただき、誠にありがとうございます。

本書のタイトルにある「事業継続マネジメント」(BCM)とは、事故や災害などの影響で事業活動が中断されてしまった場合に、どのような方法で事業再開・継続を果たしていくかを、平常時のうちに検討し、準備しておくための方法論です。また、実際に事業中断に陥ってしまったときに、事業再開・継続を実現するための方法を文書化した計画のことを「事業継続計画」(BCP)といいます。

筆者が本書を執筆している2021年4月においては、世界中で新型コロナウイルス感染症によるパンデミック(世界規模での流行)が猛威を振るっており、いまだ収束の見通しは立っておりません。2020年初頭から日本でも感染者が増加し、多くの企業が規制や自粛などによる事業活動への制限や、顧客の大幅減少などの影響を受けながら、感染防止対策や事業継続、さらには企業の存続のために奔走しておられることと思います。

筆者が専門としている事業継続マネジメントの分野においても、2020年には、このような状況を踏まえて様々な議論がありました。事業継続のための活動をいかにパンデミックに対応させていくかというような観点もあれば、BCPはこのようなパンデミックには役に立たないのではないかといった極端な意見もありましたが、いずれにしてもパンデミックによって事業継続マネジメントの重要性が再認識されたことは疑いようがありません。

しかしながら、一方で、これまで事業継続に関する取組みも検討も進めてこなかったという企業が多いのも事実です。今このページを読んでくださっている方々の中にも、これまで「事業継続マネジメント」という言葉を知らなかった、あるいは何から始めればいいのかわからず手をつけられなかった、という方が少なくないのではないでしょうか。

そのような状況であっても、まず本書をお手に取っていただき、このページを開いて下さったということは(たとえ書店での立読みだったとしても)、あなたが御社の事業継続に関して既に何らかの問題意識を感じておられるということかと思います。

日本企業の、特に中小企業の多くが未だにそのような問題意識を抱いていない現状において、既にこのページを開いておられることは、非常に大きなアドバンテージです。ぜひ、その問題意識を放置せずに、実践への1歩を今すぐ踏み出していただきたいと思います。

本書は、事業継続マネジメントの実務に20年近く携わってきた筆者自身が持つノウハウを、特に中小企業の皆様に自力で取り組んでいただけるように書籍化したものです。しかもそのノウハウは、筆者の我流ではなく、世界的に広く用いられている標準的な方法論に基づいています。

この方法論は、もちろん日本企業にとっても有用であり、正しく理解すれば、特に中小企業の事業継続のために確実にプラスになるノウハウです。しかしながら、参考書などの情報の多くが英語で書かれている等の理由から、日本企業にはあまり普及していないのが現状です。

筆者は、2005年にこの分野のコンサルティングに従事するようになって以来、事業継続マネジメントに関する本家本元の1つである、BCI(The Business Continuity Institute)が発行するガイドラインや、海外のBCI会員および関係者との間での議論から、実践的な事業継続マネジメントのノウハウを学び、また多くのコンサルティング案件での実践を通して、この方法論を日本企業に適用するための勘どころやコツを習得してきました。

本書の執筆にあたっては、そのようなノウハウや経験を、書籍という媒体で表現できる限り、惜しみなく投入しています。その結果として、それなりに分量の多い本になりました。特に第3章〜第4章あたりは文字数が多くなっており、読みにくいと感じられる方も少なくないのではないかと思います。言い訳がましいことを言うようで恐縮ですが、書籍という媒体では質問をお受けすることができないため、多くの方から質問されそうなことをなるべく先回りして説明するようにしています。したがって、自分に関係なさそうな部分については、適宜読み飛ばしていただければと思います。

このような書籍を世に出してしまうと、競合相手となるコンサルタントにそのノウハウを模倣されてしまうのではないかと思われるかもしれませんが、筆者としてはむしろ著作権など本書に関する知的財産権を侵害しない範囲であれば、どんどん模倣していただきたいとさえ思っています。

総務省統計局が発行している『日本の統計2020』によると、平成28年時点での国内企業数は約386万社です(https://www.stat.go.jp/data/nihon/pdf/20nihon.pdf アクセス日:2021年4月29日)。これほど多くの日本企業に事業継続マネジメントを普及させていくためには、実践的なノウハウを持つコンサルタントがもっと増えた方がよいでしょう。

筆者としては、そのくらいの想いで本書を執筆しておりますので、企業で事業継続マネジメントに取り組む皆様におかれましては、ぜひ本書を足がかりとして、御社の事業継続力を維持向上させるための活動を実践していただきたいと思います。

本書は7つの章で構成されていますが、第2章から第7章までで事業継続マネジメントの活動全体を網羅するように執筆しました。これから初めて事業継続マネジメントに取り組まれる方々のために、各章に含まれている項目は、実際に事業継続マネジメントに取り組まれる際に実施される順序を意識して並べてあります。しかしながら、既に取り組みを進めておられる方々であれば、必ずしも最初から最後まで順序どおりに通読されずに、目次を見て気になった項目をピックアップして読んでいただいても、役に立てていただけるのではないかと思います。

一方で、第1章には、事業継続マネジメントの活動全体にかかわる基本的な考え方をまとめました。こちらに関しては、最初にひととおり目を通されることをおすすめします。多くの日本企業は、これらの考え方を知らないために、事業継続マネジメントへの取組みに躊躇されていたり、取り組み始めてから大変な苦労をされたりしています。したがって先にこれらを知るだけでも、今後の取り組みがかなり楽になると思います。

今本書を読んでくださっている皆様のお立場は、企業の経営者から事業継続や災害対策などのご担当者、コンサルタント、さらには災害や危機管理などに関する研究者の方々など様々かと存じますが、どのようなお立場の方々に対しても、本書を通して何かしら新たな知識やヒントをお伝えできることができ、日本企業における事業継続マネジメントの普及に少しでも寄与できれば幸いです。


(Web サイトへの掲載に合わせて、文字種(全角/半角)を一部修正しました。)

 

合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

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書籍出版のご報告> 『「事業継続マネジメント」実践ガイド』

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このたび、セルバ出版様より著書を出版させていただきましたので、ご報告します。

『困難な時代でも企業を存続させる!! 「事業継続マネジメント」実践ガイド』

事業継続マネジメント(BCM)の実践的なノウハウを、できるだけ網羅的に詳しく書かせていただきました。企業などで BCM に取り組まれている方や、この分野でコンサルタントや BCMS 審査員などといった形で活動されている皆様に、ぜひご活用いただければと思います。

1,980 円(消費税込)です。

ちなみに目次は以下のようになっております。

第1章 中小企業にこそ必要な「事業継続」の考え方

– 「事業継続計画(BCP)は中小企業には難しい」というのは誤解
– 最初から継続的なマネジメント活動として取り組もう
– BCPを作ることには極力手間をかけずに済ませよう
– 「防災」と BCM との関係を整理しておこう
– 必ずしも「できるだけ早く復旧させる」ことが BCM の目的ではない
– 御社における災害のリスクを総合的に把握しておこう
– 事業継続のための活動を普段の商売に活かそう
– 非営利組織はどのように事業継続に取り組むべきか
– 他者の力も借りて合理的な事業継続を実現しよう
– どこで手を抜けるか考えながら取り組もう

第2章 まず御社の事業継続の基礎固めをしよう

– 事業継続のための「基礎固め」のために何をすべきか
– 顧客やサプライヤーなどとの関係を大まかに整理しよう
– 資金繰りをザックリ試算してみよう
– 御社が事業継続マネジメントに取り組む目的を文章にしてみよう
– 事業継続マネジメントの適用範囲を決めよう
– 事業継続マネジメントの大まかな年間計画をつくろう

第3章 事業継続における優先順位を整理しよう

– どの製品・サービスを優先的に復旧すべきかを考えておこう
– 復旧を後回しにすべき製品・サービスについてどうするか考えておこう
– 災害が発生してから復旧までの時間を「目標」として決めよう
– 最悪の事態を想定すべきか?

第4章 御社の「事業継続上の弱点」を見極めよう

– この章での分析作業の流れ
– 製品・サービスを顧客に届けるためのプロセスを整理しよう
– 必要な資源を把握しよう
– 事業中断リスクが集中している資源を把握しよう
– 資源が使えなくなった場合のリスクを評価しよう
– サプライチェーンにおけるリスクをどのように評価するか

第5章 弱点をカバーする方策を検討しよう

– 「元に戻す」以外の方策を考えてみよう
– 自社にとって現実的・合理的な方策を見極めよう
– 普段の仕事の見直しが事業継続につながらないか考えよう

第6章 検討結果を「事業継続計画」(BCP)にまとめよう

– BCP に関する文書構成を考えておこう
– BCP に最低限これだけは書こう
– どのような体制で緊急事態に対応するか決めておこう
– 緊急事態における法的要件を確認しておこう
– BCP の雛形を有効に活用しよう
– どこまで詳しく BCP に書く必要があるか見極めよう
– BCP は「災害が発生した直後に見直す」前提でつくろう
– 作成した BCP を社内に周知しよう

第7章 演習などを通して BCP を改善しよう

– 自社にどのような演習が必要なのか検討しよう
– シンプルな方法で「机上演習」を実施しよう
– 演習の結果は必ず記録しよう
– 演習結果を BCP の改善に活用しよう
– 他社での事例なども改善に活かそう
– 規格やガイドラインなども参考にしよう

 

多くの皆様にお役立ていただければ幸いです。

 

合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

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書籍紹介『見るみる BCP・事業継続マネジメント・ISO 22301』(深田博史・寺田和正)

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本書は恐らく、ISO 22301 の 2019 年版、およびその日本語訳である JIS Q 22301 の 2020 年版に準拠して書かれた最初の本ではないかと思います。

経歴を拝見したところ、著者のお二人はマネジメントシステム(および関連する規格)に関するスペシャリストのようです。同著者による「見るみる」シリーズとして、BCM 以外にも品質、環境、個人情報、食品安全衛生(HACCP)といったマネジメントシステムに関する書籍が、日本規格協会から出版されています。

本書はこのような、マネジメントシステムのスペシャリストが BCM の参考書を執筆されたことの意義や利点が、とても良い形であらわれていると思います。規格に準拠した形で書かれてはいますが、認証取得する/しないに関わらず、これから BCM に取り組み始める(もしくは既に取り組んでおられる)多くの方々に読んでいただきたいと思います。

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【書籍情報】

深田博史・寺田和正(2021)『見るみるBCP・事業継続マネジメント・ISO 22301: イラストとワークブックで事業継続計画の策定,運用,復旧,改善の要点を理解』日本規格協会

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私が思うに、本書の最も良いところは次のような点であり、これらはいずれもマネジメントシステムの使いこなし方を熟知しているからこそ実現できたのではないかと思います。

  • 用語の定義が正確で、国際規格に忠実である。
  • 継続的なマネジメント活動として取り組むことを前提として書かれている。特に、小さく始めて早めに成果を得てから対象範囲を拡大していくというアプローチが明記されている。
  • 日常業務の中で事業継続の観点から実施すべきことが、品質、環境、情報セキュリティ、労働安全衛生といった他のマネジメント領域と関連させて説明されている(しかも本の中で比較的最初の方で)。

私も仕事柄、BCM の参考書は多数見てきましたが、残念ながら上の 3 点が押さえられている本は非常に少ないです。

また、マネジメントシステムという観点とは異なりますが、事業継続に関連する資源や、演習プログラムに関する記述など、規格に忠実に書かれた結果として一貫性を保って整然と説明されている部分もあります。余談ですが、こういうところは下手に自己流で書こうとして、かえって分かりにくくなっている本も多いものです。

BCP を作るだけでなく、その実装として必要な活動についても触れられている点や、非常事態が発生した場合にまず BCP を被災状況に合わせて修正すべきであることが明記されている点も重要です。BCP の作り方に終始した参考書では、このような実務的な内容が書かれないこともあります。

本書が特にユニークなのは第 7 章で、言わば ISO 22301 の読み解き方の解説となっています。特に規格の箇条 4〜10 に関しては、もともと読みにくい文体で書かれている規格本文の内容が、こなれた文体で要約されていて、規格で言わんとしていることをザックリ掴みやすくなっています。もし認証取得を目指すならば、ちゃんと規格の原文(必要に応じて ISO の英文)を読み込んで、要求事項を正しく理解する必要がありますが、「認証取得は目指していないが規格に含まれているノウハウやエッセンスを採り入れたい」という方々にとっては、規格本文よりも本書の方が分かりやすくて便利かも知れません。

強いて本書の弱点を挙げるとすれば、事業影響度分析やリスクアセスメントに関する方法論が、あまり具体的に書かれていないことです、しかしながら、それは他の参考書などで補えばいい話です(そのうち自分自身でもそのような本を書こうとも思っていますが)。まずは本書で BCM の全体像を掴んで、体系的かつ組織的なマネジメント活動として取り組み、組織に定着させていくことを目指すことをお勧めしたいと思います。

 

合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

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書籍紹介『新型コロナ対応・民間臨時調査会 調査・検証報告書』(一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ)

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数年前から私の周りで「After Action Review」(AAR)の重要性が話題に上ることが増えてきたように思います。AAR という用語を使わないとしても、緊急事態対応に関する事後のふりかえりや検証の結果を今後に生かすべきであることや、日本でそのような検証があまり積極的に行われていないのではないか、という議論が随分増えてきました。

特に政府の新型コロナウイルス対応に関しても、まだ完全収束してはいないものの、第一波をとりあえず乗り切って若干落ち着いたところで、政府の対応内容に関して AAR を行い、その結果を第二波への備えに生かすべきではないのか?という意見が聞かれるようになりました。この点については私自身もそう思っています。

例えば 10 月 23 日に東京ビッグサイトで開催された「危機管理産業展(RISCON)2020」で 15:00 から行われた『事例から学ぶ「検証」の重要性』というセッションでも、リスク対策.com 編集長の中澤さんは、雑誌『リスク対策.com2010 年 7 月 25 日号で新型インフルエンザ対応の記録をいかに残すか、という主旨の特集を組んだことに触れ、果たして当時の経験から得られた教訓は(政府に限らず企業などでも)生かされているのか?今のうちに新型コロナウイルス対応に関する検証を行っておくべきではないのか?といった問題提起をされていました。

このような話を聞いて、そのとおりだと思いつつ、現在の政府がこれまでの対応を検証する可能性は低そうだなと思っていたら、一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブが独自に検証作業に取り組んでおられ、それが書籍として出版されていることを知ったので、早速購入しました。

【書籍情報】

一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(2020)『新型コロナ対応・民間臨時調査会 調査・検証報告書』ディスカヴァー・トゥエンティワン(Discover21)

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本書では日本で最初の感染者が確認された 2020 年 1 月 15 日ごろから、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)2020」が閣議決定される 7 月 17 日ごろまでを対象として、政府の対応状況に関する検証が行われています。

ヒアリングやインタビューは当時の首相や官房長官、厚生労働大臣、新型コロナウイルス感染症対策担当大臣などといった主要閣僚や、専門家会議・諮問委員会・分科会メンバー、厚生労働省や経済産業省などの関係者、自治体や保健所など、83 名もの方々に対して実施されています。専門家会議や政府関係者などからのコメントの多くは匿名となっていますが、当時の意思決定のプロセスや活動状況などに関する説明やふり返りなどが具体的に記述されています。コメントの中には現場の本音と思われるような発言も多く、ヒアリングやインタビューが細心の注意を払って効果的に行われたという印象を受けました。

検証の対象も多岐にわたっています。本書の第 2 部「新型コロナウイルス感染症に対する日本政府の対応」に含まれる各章のタイトルは次のようになっており、これら各章において、インタビューやヒアリングで得られたコメントや各種資料に基づいて、事実関係が整理されています。

第1章 ダイヤモンド・プリンセス号
第2章 武漢からの邦人救出と水際対策強化
第3章 専門家の参画と初期の行動変容政策(3密と一斉休校)
第4章 緊急事態宣言とソフトロックダウン
第5章 緊急事態宣言解除
第6章 経済対策
第7章 PCR等検査
第8章 治療薬・ワクチン
第9章 国境管理(国際的な人の往来再開)

ひとくちに「新型コロナウイルス対応」と言っても実際には多数のプロジェクトが同時並行で進んでいた様子が、あらためてよく分かります。

ひととおり読み終えた感想として、本書は闇雲に政府の対応を批判するのではなく、かといって安易に擁護する訳でもなく、(私が申し上げるのもおこがましいですが)中立な立場で、当事者から適度な距離感をもって検証されているという印象を受けました。本書の最後(特別インタビューの直前)に次のような一節がありますが、このような姿勢が検証作業を通して貫かれていたからこそ、事実関係が周到に確認され、多面的な検証が実現されたのだろうと思います。

安易な総括は、安易な前例主義を生み、次の危機対応を危うくしかねない。政府の採った多くの対応は、与えられた制約条件のもとで関係者が知恵を振り絞って導きだされた答えである。そうした前提を含めて今回の対応の一つ一つを丁寧に分析し、評価し、その射程を見定め、教訓を次の危機に活かすことこそが、この検証の意義であると考える。

私自身を含めて一般の方々がこのような大規模な検証作業に関わる機会は少ないと思われますが、企業や自治体などで、自分自身が関わった緊急事態対応に関する事後検証を行うことはあるかもしれません。本書はそのような検証作業を行う際の手本としても、価値があるのではないかと思います。

私は kindle 版で購入したので物理的なボリューム感が分かりませんが、紙媒体だと 466 ページもあるそうです。安っぽい表現で恐縮ですが、多大な労力をかけて検証された結果をたったの 2,475 円(紙媒体だと 2,750 円)で読ませていただけて、大変ありがたいと思っています。しかも 7 月中旬までの対応内容が 10 月 18 日に発行されているという作業期間の短さを考えると、検証に関わった委員の方々やワーキンググループのメンバーをはじめ、出版社も含めて多くの方々が大変な努力をされたものと思います。

単なる読者である私が申し上げるのも変ですが、この努力の成果が第二波以降の対応に活かされることを切に願っています。

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ちなみに私が本書の存在を知ったきっかけは、「リスク対策.com」主催の「危機管理カンファレンス 2020 秋オンライン」の第 1 日目で、本書のために組織されたワーキンググループの一人である蛭間芳樹氏の講演を聴講したことでした。「リスク対策.com」からはいつも新しい情報や気づきをいただいており、大変感謝しています。

 

合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

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書籍紹介『世界に通じる危機対応 ISO 22320:2011 危機対応に関する要求事項 解説』林春男(編集委員長)

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手前味噌ですが私自身が関わった書籍のご紹介です。

危機対応(緊急事態対応)に関する国際規格「ISO 22320」が 2011 年に発行され、その内容を変えずに和訳したものが日本産業規格「JIS Q 22320」として 2013 年に発行されたことを受けて、これを日本で普及させることを目指して作られた本です。ISO の委員としてこの規格の制定に参画された林春男先生に編集委員長をお願いし、一般社団法人レジリエンス協会の有志 7 名からなる「危機対応標準化研究会」にて執筆しました。

ISO 22320 は、効果的な危機対応を実現するために最低限考慮すべき事柄として、指揮・統制のあり方、危機対応に用いる活動情報処理のあり方、部局間・組織間の協力および連携のあり方、などについてまとめられた規格です。危機事象の種類(災害や事故など)や組織の種類(公的機関や民間企業など)にかかわらず汎用的に適用できる規格となっています。

この規格の JIS 化に合わせて本書を企画した問題意識については、林先生が「はじめに」で次のように述べておられます。

世界の先進国では,どのような種類の危機が発生しても対応可能であり,対応にかかわるすべての組織に共通する一元的な危機対応体制が採用されている.先進国の中では我が国だけが例外である.その原因に,従来の個別的な対処方法でもこれまで様々な種類や規模の危機を乗り越えてきたという成功体験があり,改める必要性が見いだせないことがある.しかし,今後予想される大規模災害を考えると,危機対応の標準化はレジリエンスの向上には不可欠であると考えられる.

 

本書の構成は次のようになっており、規格の内容は第 2 章で解説されています。

  • 第 1 章 危機対応に本当の専門家はいない
  • 第 2 章 ISO 22320 の解説
    • 4. 指揮・統制に関する要求事項
    • 5. 活動情報に関する要求事項
    • 6. 協力及び連携に関する要求事項
  • 第 3 章 規格は使わなければ意味がない
  • 第 4 章 ISO 22320 を現場に活かすには
  • 付録 ISO 規格開発手順

私自身は第 2 章の「4. 指揮・統制に関する要求事項」の執筆を担当させていただきました。また林先生に第 1 章と第 3 章の執筆をお願いしました。

本書全体を通して、単に要求事項の解説にとどまらず、これらを自治体や企業などの組織で実践するための留意点やヒントをできるだけ記述するようにしています。

特に第 2 章においては、規格の内容に基づく解説に加えて、具体例のひとつとして米国で標準的に採用されている「Incident Command System」(ICS)の要点を紹介しています。ICS は ISO 22320 よりも先に開発されたものですが、ISO 22320 の要求事項が概ねカバーされているので、この規格の要求事項を具体的にはどのように実現していくのかを考えるうえで、とても参考になります。

 

実は ISO 22320 が既に 2018 年に改定されており、規格の構成や内容が大幅に刷新されているのですが、この 2018 年版が JIS 化される予定は今のところ無いようです(2020 年 10 月時点での状況)。したがって本書も改訂される予定がありません。個人的には 2018 年版も早急に JIS 化されてほしいのですが…….。

 

【書籍情報】

危機対応標準化研究会(編著)(編集委員長 林春男)(2014)『世界に通じる危機対応 ISO 22320:2011(JIS Q 22320:2013)社会セキュリティ – 緊急事態管理 – 危機対応に関する要求事項 解説』日本規格協会。

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合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

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書籍紹介『大規模災害リスクと地域企業の事業継続計画』家森信善他(編著)

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本書は四部構成となっており、「第 II 部 事業継続計画(BCP)に関する企業意識調査」および「第 III 部 自然災害に対する中小企業の備えと、地域金融機関による支援についての調査」という 2 つの調査を中心として、第 I 部はこれらへの導入として背景事情の説明、第 IV 部はこれらの調査結果に対する各方面の有識者からのコメントという構成になっています。

第 II 部および第 III 部だけでも(私が申し上げるのもおこがましいですが)十分価値のある論文なのですが、さらに第 IV 部で様々な観点からのコメントが加わることによって、多くの新たな視点をいただけた本でした。

本書(および編著者らの一連の研究)の最大の特徴は、企業の事業継続にリスクファイナンスの観点からアプローチしていることです(注 1)。企業の事業継続にかかわるリスクファイナンスに関しては、詳しい解説やソリューションが多いとは言えない現状において、このような研究は貴重であり、私自身も勉強が必要だと思っている分野でもあります(注 2)。

第 II 部で は企業(特に中小企業)を対象としたアンケート調査の結果から、BCM に対する意識や取り組み状況などが分析されています。ここで示されている結果については、過去に行われた他の調査(内閣府やインターリスク総研、KPMG ビジネスアシュアランスなどによる実態調査)の結果と重複している部分も多いのですが、本書ならではのユニークな切り口もいくつかありました。

例えば、復旧のための資金源の重要性への認識と、BCP 作成状況との相関から、「(復旧のための資金源として)公的資金が重要だと思っている企業は BCP を策定していない」ことを見出した上で、「もし、公的資金での復旧に依存して、事前に BCP の策定が進んでいないとしたら大きな問題といえる」と指摘しています。大規模災害に対する無力感から、対策することを諦めてしまう企業が多いのではないかと思います。もちろん大規模災害から自力だけで復旧していくのは、どのような企業にとっても困難だと思いますが、各企業側でもできるだけ損失を軽減するための事前対策に取り組み、社会全体としての経済被害を少なくしていかないと、地域や社会全体としての復旧・復興の長期化を招きかねません。この部分に関しては企業に対する動機づけが急務なのではないでしょうか。

第 III 部の調査に関しては、地銀・信用金庫・信用組合の支店長に対して、融資先の BCM の状況に関するアンケート調査を行うというアプローチが画期的だと思いました(注 3)。金融機関の多くが融資先の BCM にあまり関心がなく、状況もよく把握していない(注 4)という現状は、実務経験を通して感じてはいましたが、これが具体的なデータで示されたことには大変重要な意義があると思います。このようなデータが、日本における BCM 促進のための政策立案などに活かされることを期待したいと思います。

 

本書に関して一点だけ残念なのは、一部の例外(注 5)を除いて、本来「事業継続マネジメント」もしくは「BCM」と表記されるべき箇所が、ことごとく「BCP」と表記されていることです。特に本書の重要なテーマであるリスクファイナンスに関しては、BCM の範疇で論じられるべきものです。このように有益な内容で、かつ様々な方面に影響力を持つと思われる本であるからこそ、このような基本的な用語は正しく使い分けていただきたいと思いました。

しかしながら一方で、この点について著者の方々を責めるのも酷だと思います。今のところ日本の産業界全体で、「BCP」という用語の誤用や、「BCP を策定すること」が目的であるかのような言説が横行しているのが現状です。 したがって本書における表記も、そのような現状に合わせるのが現実的であるという考え方もあり得ます。

そのような問題はあるにせよ、本書のユニークなアプローチを通して、単に「BCP を策定すること」にとどまらず、リスクファイナンスを含めた包括的な BCM に関心を広げていく方々が増えるのではないかと思います。そのような今後の広がりに期待したいと思います。

 

【書籍情報】

家森信善・浜口伸明・野田健太郎(編著)(2020)『大規模災害リスクと地域企業の事業継続計画 中小企業の強靭化と地域金融機関による支援』中央経済社。

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【注釈】

  1. 編著者の中で特に野田健太郎先生は、かつて日本政策投資銀行にて「防災格付融資」(現在の「BCM 格付融資」の前身)を開発された方であり、恐らく銀行在職当時から、この分野に関して問題意識を持っておられたのであろうと推察します。
  2. 私自身、損保会社のグループ企業で BCM のコンサルティングを担当していながら、リスクファイナンスに関して実践できたことは非常に限定的でした。この点はいまだに反省というか罪悪感に近いものを引きずっています。
  3. 東洋大学の金子友裕先生が、東日本大震災被災後の東北 6 県の税理士に対して、顧問先企業の倒産や復旧状況、および BCM に関するアンケート調査を実施した例がありますが、金融機関を対象とした調査は他に知りません。
  4. 金融機関の立場としては、融資先が災害などで倒産すると資金を回収できなくなるので、災害対策や BCM への取り組み状況を把握するインセンティブがあるはずだと考えられます。
  5. 例外として第 11 章では BCM に相当する箇所が「事業継続」と表記されて BCP と区別されていましたし、第 12 章では BCP と BCM が適切に使い分けられていました。

 

合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

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書籍紹介『阪神大震災 ― 日銀神戸支店長の行動日記』遠藤勝裕(著)

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本書は既に絶版となっているようですので、入手したければ古本をあたるしかありませんが、阪神淡路大震災における貴重な記録として大変価値のある本だと思います。震災発生当時に日銀の神戸支店長だった著者が自ら記録した内容を中心にまとめられた本です。

本書は 2 部構成となっていますが、阪神淡路大震災における対応の記録となっているのは第 1 部で、日本銀行の使命である通貨価値の安定と金融システムの安定を、震災直後の困難な状況においても完遂するために尽力された際の状況が、克明に記述されています。

全体で 187 ページある本書のうち第 1 部が 120 ページを占めており、そのうち 81 ページが発災当日(1 月 17 日)から 2 月上旬までの日銀支店長としての業務の記録となっています。このページ数を見るだけでも、本書における記録の詳しさを想像していただけるかと思います。

内容も、詳細かつ生々しく記述された文章に加えて、発災当日に手書きで作成された金融特例措置の通知文や、損傷銀行券の鑑定作業や金庫室内で散乱した札束を整理する作業などの写真など、多くの資料が収められています。

当時はインターネットも一般には使われていない時代でしたので、社会インフラの状況などは現在とは異なる部分も多いと思いますが、被災直後の行動や、必要となる物資などの問題に関しては、現在にも通じる教訓となる材料が豊富に含まれています。実は私自身も本書を古本屋で入手しましたが、手に入れられて本当に良かったと思えた本です。

 

【書籍情報】

遠藤勝裕(1995)『阪神大震災 ― 日銀神戸支店長の行動日記』日本信用調査株式会社出版部

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合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

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