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書籍紹介『見るみる BCP・事業継続マネジメント・ISO 22301』(深田博史・寺田和正)

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本書は恐らく、ISO 22301 の 2019 年版、およびその日本語訳である JIS Q 22301 の 2020 年版に準拠して書かれた最初の本ではないかと思います。

経歴を拝見したところ、著者のお二人はマネジメントシステム(および関連する規格)に関するスペシャリストのようです。同著者による「見るみる」シリーズとして、BCM 以外にも品質、環境、個人情報、食品安全衛生(HACCP)といったマネジメントシステムに関する書籍が、日本規格協会から出版されています。

本書はこのような、マネジメントシステムのスペシャリストが BCM の参考書を執筆されたことの意義や利点が、とても良い形であらわれていると思います。規格に準拠した形で書かれてはいますが、認証取得する/しないに関わらず、これから BCM に取り組み始める(もしくは既に取り組んでおられる)多くの方々に読んでいただきたいと思います。

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【書籍情報】

深田博史・寺田和正(2021)『見るみるBCP・事業継続マネジメント・ISO 22301: イラストとワークブックで事業継続計画の策定,運用,復旧,改善の要点を理解』日本規格協会

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私が思うに、本書の最も良いところは次のような点であり、これらはいずれもマネジメントシステムの使いこなし方を熟知しているからこそ実現できたのではないかと思います。

  • 用語の定義が正確で、国際規格に忠実である。
  • 継続的なマネジメント活動として取り組むことを前提として書かれている。特に、小さく始めて早めに成果を得てから対象範囲を拡大していくというアプローチが明記されている。
  • 日常業務の中で事業継続の観点から実施すべきことが、品質、環境、情報セキュリティ、労働安全衛生といった他のマネジメント領域と関連させて説明されている(しかも本の中で比較的最初の方で)。

私も仕事柄、BCM の参考書は多数見てきましたが、残念ながら上の 3 点が押さえられている本は非常に少ないです。

また、マネジメントシステムという観点とは異なりますが、事業継続に関連する資源や、演習プログラムに関する記述など、規格に忠実に書かれた結果として一貫性を保って整然と説明されている部分もあります。余談ですが、こういうところは下手に自己流で書こうとして、かえって分かりにくくなっている本も多いものです。

BCP を作るだけでなく、その実装として必要な活動についても触れられている点や、非常事態が発生した場合にまず BCP を被災状況に合わせて修正すべきであることが明記されている点も重要です。BCP の作り方に終始した参考書では、このような実務的な内容が書かれないこともあります。

本書が特にユニークなのは第 7 章で、言わば ISO 22301 の読み解き方の解説となっています。特に規格の箇条 4〜10 に関しては、もともと読みにくい文体で書かれている規格本文の内容が、こなれた文体で要約されていて、規格で言わんとしていることをザックリ掴みやすくなっています。もし認証取得を目指すならば、ちゃんと規格の原文(必要に応じて ISO の英文)を読み込んで、要求事項を正しく理解する必要がありますが、「認証取得は目指していないが規格に含まれているノウハウやエッセンスを採り入れたい」という方々にとっては、規格本文よりも本書の方が分かりやすくて便利かも知れません。

強いて本書の弱点を挙げるとすれば、事業影響度分析やリスクアセスメントに関する方法論が、あまり具体的に書かれていないことです、しかしながら、それは他の参考書などで補えばいい話です(そのうち自分自身でもそのような本を書こうとも思っていますが)。まずは本書で BCM の全体像を掴んで、体系的かつ組織的なマネジメント活動として取り組み、組織に定着させていくことを目指すことをお勧めしたいと思います。

 

合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

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書籍紹介『世界に通じる危機対応 ISO 22320:2011 危機対応に関する要求事項 解説』林春男(編集委員長)

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手前味噌ですが私自身が関わった書籍のご紹介です。

危機対応(緊急事態対応)に関する国際規格「ISO 22320」が 2011 年に発行され、その内容を変えずに和訳したものが日本産業規格「JIS Q 22320」として 2013 年に発行されたことを受けて、これを日本で普及させることを目指して作られた本です。ISO の委員としてこの規格の制定に参画された林春男先生に編集委員長をお願いし、一般社団法人レジリエンス協会の有志 7 名からなる「危機対応標準化研究会」にて執筆しました。

ISO 22320 は、効果的な危機対応を実現するために最低限考慮すべき事柄として、指揮・統制のあり方、危機対応に用いる活動情報処理のあり方、部局間・組織間の協力および連携のあり方、などについてまとめられた規格です。危機事象の種類(災害や事故など)や組織の種類(公的機関や民間企業など)にかかわらず汎用的に適用できる規格となっています。

この規格の JIS 化に合わせて本書を企画した問題意識については、林先生が「はじめに」で次のように述べておられます。

世界の先進国では,どのような種類の危機が発生しても対応可能であり,対応にかかわるすべての組織に共通する一元的な危機対応体制が採用されている.先進国の中では我が国だけが例外である.その原因に,従来の個別的な対処方法でもこれまで様々な種類や規模の危機を乗り越えてきたという成功体験があり,改める必要性が見いだせないことがある.しかし,今後予想される大規模災害を考えると,危機対応の標準化はレジリエンスの向上には不可欠であると考えられる.

 

本書の構成は次のようになっており、規格の内容は第 2 章で解説されています。

  • 第 1 章 危機対応に本当の専門家はいない
  • 第 2 章 ISO 22320 の解説
    • 4. 指揮・統制に関する要求事項
    • 5. 活動情報に関する要求事項
    • 6. 協力及び連携に関する要求事項
  • 第 3 章 規格は使わなければ意味がない
  • 第 4 章 ISO 22320 を現場に活かすには
  • 付録 ISO 規格開発手順

私自身は第 2 章の「4. 指揮・統制に関する要求事項」の執筆を担当させていただきました。また林先生に第 1 章と第 3 章の執筆をお願いしました。

本書全体を通して、単に要求事項の解説にとどまらず、これらを自治体や企業などの組織で実践するための留意点やヒントをできるだけ記述するようにしています。

特に第 2 章においては、規格の内容に基づく解説に加えて、具体例のひとつとして米国で標準的に採用されている「Incident Command System」(ICS)の要点を紹介しています。ICS は ISO 22320 よりも先に開発されたものですが、ISO 22320 の要求事項が概ねカバーされているので、この規格の要求事項を具体的にはどのように実現していくのかを考えるうえで、とても参考になります。

 

実は ISO 22320 が既に 2018 年に改定されており、規格の構成や内容が大幅に刷新されているのですが、この 2018 年版が JIS 化される予定は今のところ無いようです(2020 年 10 月時点での状況)。したがって本書も改訂される予定がありません。個人的には 2018 年版も早急に JIS 化されてほしいのですが…….。

 

【書籍情報】

危機対応標準化研究会(編著)(編集委員長 林春男)(2014)『世界に通じる危機対応 ISO 22320:2011(JIS Q 22320:2013)社会セキュリティ – 緊急事態管理 – 危機対応に関する要求事項 解説』日本規格協会。

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合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

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書籍紹介『BCM(事業継続マネジメント)入門』小林誠・渡辺研司(著)

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事業継続計画(BCP)や事業継続マネジメント(BCM)に関して、「入門者向けに何か良い参考書はありませんか?」と聞かれたら、私が迷わずお勧めする本がこちらです。

発行されたのは 2008 年ですので若干古いですが、内容は現在でも十分通用します。

もちろん、この本が出た後に BCM に関する ISO 規格(ISO 22301 など)が発行されたり、BCI や内閣府などから発行されている様々なガイドラインが改訂されたりしましたので、若干のアップデートは必要です。しかしながら、BCM に取り組む上で実務者として知っておくべき基本的な考え方は大きく変わっていません。したがって、まずこの本をお読みになって BCM の基本的な知識や考え方のベースを作ってから、他の本やガイドラインなどを読み進めると、勉強しやすいのではないかと思います。

この本は「第 1 章 BCM 総論」と「第 2 章 Q&A で知る BCM の実際」から構成されており、第 1 章は正味 32 ページ、全体でも 113 ページしかありませんが、BCM の概念を理解するために必要なことは、ひととおり網羅的に書かれています。

また第 2 章は、BCM に取り組み始めた方々が疑問に思うような典型的な質問 30 項目に答える形で、BCM の活動全般にわたって様々なノウハウが記述されています。この本を読むだけでは、BCP を作れるようにはならないと思いますが、まず BCM としてどのような活動が必要になるのか、自社においてどのあたりが難しそうか、などを把握することができると思います。

ところで、(私の独断ですが)本書の最大の特徴のひとつは、タイトルに「BCP」と書かれていないことだと思います。Amazon で検索していただければすぐ分かると思いますが、タイトルに「BCP」もしくは「事業継続計画」と書かれている本の数に比べると、「BCM」もしくは「事業継続マネジメント」と書かれている本はごく少数です。日本ではまず「BCP」を作ってから、それを維持管理するために「BCM」に取り組むと思っておられる方が多いこともあって、用語としても「BCP」の方が普及しています。本書は日本におけるそのような認識に対して、あえて本来の BCM の概念や方法論に忠実に書かれているため、タイトルに「BCM」を掲げています。2008 年に発行されて以来、いまだに通用するのはそのためです。

著者両名とも私が大変お世話になっている大先輩ですので、私が申し上げるのもおこがましいですが、BCM の概念や方法論を、これだけ網羅的かつコンパクトにまとめられた本は珍しいと思います。BCM に関する勉強を始める際には最初に読むべき一冊だと思いますし、実務者の方々も絶版になる前に手に入れておくことをお勧めしたいと思います。

 

【書籍情報】

小林誠・渡辺研司(2008)『BCM(事業継続マネジメント)入門(やさしいシリーズ 21)』日本規格協会

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合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

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