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書籍紹介『被災したあなたを助けるお金とくらしの話』岡本正(著)

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著者の岡本先生は、東日本大震災で被災された方々に対して多くの弁護士の方々が対応された無料法律相談の事例(4 万件以上)を分析され、被災者の方々の生活再建におけるニーズの数値化・視覚化に尽力され、さらにはその結果を活かして慶應義塾大学など複数の大学で「災害復興法学」という講義を創設された方です。

岡本先生は災害復興法学に関して既に複数の著書がありますが、これまでの専門的な著書とは全く異なる新著が発刊されたので早速購入しました。

本書にはそのタイトルの通り、何らかの災害で被災された方々が生活を再建していくために必要な知識が書かれています。しかしながら、これは被災した後に読むのではなく、被災する前(つまり今)読むべき本です。

例えば「Part 2 貴重品がなくなった」という部分では、預金通帳やキャッシュカード、土地の権利証など、たいていの貴重品は、災害で紛失しても何とかなることが書いてあります。これを知っていれば、災害で避難する時に貴重品を探していたために逃げ遅れたり、避難した後に貴重品を取りに戻って災害に巻き込まれたり、といった事態を防ぐことができます。

これ以外の知識に関しても、被災してからこの本を読むのと、被災する前に一度でもこの本を読んでいたのとでは、災害からの立ち直りに向けての最初の一歩が断然違うはずです。

例えば「自然災害債務整理ガイドライン」という仕組みがあることをあらかじめ知っているだけで、災害で家財を失った後の心理的ショックが多少は小さくて済むかもしれません。

ですからぜひ「今」手にとって読んでいただきたい本です。

内容はもちろん、紙面のデザインや装丁も含めて、とても読みやすい本になっています。

目次はこちらのようになっています。目次からしてこの親しみやすさ!

被災者に対する生活再建のための様々な仕組みは、法律に基づいて作られており、支援を受けるためにはそれなりの手続きが必要なので、黙って待っていても受けられませんし、弁護士などの手助けが必要になる場合もあります。

しかし、このような仕組みがあることを知らなければ、誰に相談すべきか、どこに手続きに行くべきかさえ分からないかもしれませんので、こういう仕組みがあることを知る入り口が見えることはとても重要です。本書はまさに、被災した後に知る必要がある「入り口」が網羅的に示されていると思います。

なお、本書の中心的な話題は、法律として用意されている様々な制度を使って、いかに災害からの生活再建をあきらめずに、少しでも有利に進めていくための知識です。しかしながら携帯電話料金や公共料金、保険料などの支払い猶予措置など、必ずしも法律に基づいていない内容も含めて書かれています。ひとりひとりが災害から立ち直っていく力をつけるために、今のうちに読んでいただきたいと思います。

ちなみに著者の趣味は「街歩き、カフェ・スイーツ・珈琲巡り、ラーメン店探訪」だそうです。

 

【書籍情報】

岡本正(2020)『被災したあなたを助けるお金とくらしの話』弘文堂

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合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

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