本書はタイトルに「新型インフルエンザ対策」と謳われていますが、感染防止策や感染者への医学的な対処方法は書かれていません。主に企業を対象として、法的な観点を中心に、新型インフルエンザ対策としてどのような準備や検討をしておくべきか、有事の際にどのように対処すべきかが書かれています。
2009 年に発生した新型インフルエンザの流行をうけて刊行された本ですので若干古いのですが、この記事を書いている 2020 年 4 月の時点で世界的に猛威を振るっている新型コロナウィルス対しても役に立つ内容が多いので、ここで紹介させていただきたいと思います。
本書は大きく次の 3 つの部分に分かれており、例えば「新型インフルエンザに感染したという従業員を出社停止とする場合、給料を支払わなければならないのか?」といったような疑問に対して、法的観点から解説されています。
- 労務管理に関する法的問題
- 取引・契約に関する法的問題
- 経営に関する法的問題
解説されている疑問は全部で 50 問あり、企業において法的観点から検討すべき事項について、網羅的にまとめられているのではないかと思います。
なお、先日『リスク対策.com』でおなじみの新建新聞社様の主催により、「企業の新型コロナウイルスへの対応状況を問う ~アンケート結果の分析と法的課題についての対談~」というテーマでオンラインセミナーが開催され、本書の著者である中野明安先生が登壇されました。その際に、本書の内容が新型コロナウィルスにも適用可能かどうか質問したところ、次の 2 つに注意する必要があるものの、これら以外は大きく変わっていないとの回答をいただきました。
- 2012 年に新型インフルエンザ等特別措置法ができた。
- 2011 年の東日本大震災で被災された方々に関する裁判の中で、あのような巨大災害のリスクに関しても、企業には安全配慮義務があることが明確に示された。
新型コロナウィルスの影響による従業員の在宅勤務や事業中断など、多くの企業において対応に苦慮されていると思いますが、少なくとも法的観点に関しては本書を拠りどころにできる問題も少なくないと思います。若干古い本ですので入手が難しいかもしれませんが、持っておくと重宝する本ですので、何とか探して入手されることをお勧めします。
【書籍情報】
中野明安(2010)『もうひとつの新型インフルエンザ対策』第一法規
合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸