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書籍紹介『新型コロナ対応・民間臨時調査会 調査・検証報告書』(一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ)

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数年前から私の周りで「After Action Review」(AAR)の重要性が話題に上ることが増えてきたように思います。AAR という用語を使わないとしても、緊急事態対応に関する事後のふりかえりや検証の結果を今後に生かすべきであることや、日本でそのような検証があまり積極的に行われていないのではないか、という議論が随分増えてきました。

特に政府の新型コロナウイルス対応に関しても、まだ完全収束してはいないものの、第一波をとりあえず乗り切って若干落ち着いたところで、政府の対応内容に関して AAR を行い、その結果を第二波への備えに生かすべきではないのか?という意見が聞かれるようになりました。この点については私自身もそう思っています。

例えば 10 月 23 日に東京ビッグサイトで開催された「危機管理産業展(RISCON)2020」で 15:00 から行われた『事例から学ぶ「検証」の重要性』というセッションでも、リスク対策.com 編集長の中澤さんは、雑誌『リスク対策.com2010 年 7 月 25 日号で新型インフルエンザ対応の記録をいかに残すか、という主旨の特集を組んだことに触れ、果たして当時の経験から得られた教訓は(政府に限らず企業などでも)生かされているのか?今のうちに新型コロナウイルス対応に関する検証を行っておくべきではないのか?といった問題提起をされていました。

このような話を聞いて、そのとおりだと思いつつ、現在の政府がこれまでの対応を検証する可能性は低そうだなと思っていたら、一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブが独自に検証作業に取り組んでおられ、それが書籍として出版されていることを知ったので、早速購入しました。

【書籍情報】

一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(2020)『新型コロナ対応・民間臨時調査会 調査・検証報告書』ディスカヴァー・トゥエンティワン(Discover21)

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本書では日本で最初の感染者が確認された 2020 年 1 月 15 日ごろから、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)2020」が閣議決定される 7 月 17 日ごろまでを対象として、政府の対応状況に関する検証が行われています。

ヒアリングやインタビューは当時の首相や官房長官、厚生労働大臣、新型コロナウイルス感染症対策担当大臣などといった主要閣僚や、専門家会議・諮問委員会・分科会メンバー、厚生労働省や経済産業省などの関係者、自治体や保健所など、83 名もの方々に対して実施されています。専門家会議や政府関係者などからのコメントの多くは匿名となっていますが、当時の意思決定のプロセスや活動状況などに関する説明やふり返りなどが具体的に記述されています。コメントの中には現場の本音と思われるような発言も多く、ヒアリングやインタビューが細心の注意を払って効果的に行われたという印象を受けました。

検証の対象も多岐にわたっています。本書の第 2 部「新型コロナウイルス感染症に対する日本政府の対応」に含まれる各章のタイトルは次のようになっており、これら各章において、インタビューやヒアリングで得られたコメントや各種資料に基づいて、事実関係が整理されています。

第1章 ダイヤモンド・プリンセス号
第2章 武漢からの邦人救出と水際対策強化
第3章 専門家の参画と初期の行動変容政策(3密と一斉休校)
第4章 緊急事態宣言とソフトロックダウン
第5章 緊急事態宣言解除
第6章 経済対策
第7章 PCR等検査
第8章 治療薬・ワクチン
第9章 国境管理(国際的な人の往来再開)

ひとくちに「新型コロナウイルス対応」と言っても実際には多数のプロジェクトが同時並行で進んでいた様子が、あらためてよく分かります。

ひととおり読み終えた感想として、本書は闇雲に政府の対応を批判するのではなく、かといって安易に擁護する訳でもなく、(私が申し上げるのもおこがましいですが)中立な立場で、当事者から適度な距離感をもって検証されているという印象を受けました。本書の最後(特別インタビューの直前)に次のような一節がありますが、このような姿勢が検証作業を通して貫かれていたからこそ、事実関係が周到に確認され、多面的な検証が実現されたのだろうと思います。

安易な総括は、安易な前例主義を生み、次の危機対応を危うくしかねない。政府の採った多くの対応は、与えられた制約条件のもとで関係者が知恵を振り絞って導きだされた答えである。そうした前提を含めて今回の対応の一つ一つを丁寧に分析し、評価し、その射程を見定め、教訓を次の危機に活かすことこそが、この検証の意義であると考える。

私自身を含めて一般の方々がこのような大規模な検証作業に関わる機会は少ないと思われますが、企業や自治体などで、自分自身が関わった緊急事態対応に関する事後検証を行うことはあるかもしれません。本書はそのような検証作業を行う際の手本としても、価値があるのではないかと思います。

私は kindle 版で購入したので物理的なボリューム感が分かりませんが、紙媒体だと 466 ページもあるそうです。安っぽい表現で恐縮ですが、多大な労力をかけて検証された結果をたったの 2,475 円(紙媒体だと 2,750 円)で読ませていただけて、大変ありがたいと思っています。しかも 7 月中旬までの対応内容が 10 月 18 日に発行されているという作業期間の短さを考えると、検証に関わった委員の方々やワーキンググループのメンバーをはじめ、出版社も含めて多くの方々が大変な努力をされたものと思います。

単なる読者である私が申し上げるのも変ですが、この努力の成果が第二波以降の対応に活かされることを切に願っています。

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ちなみに私が本書の存在を知ったきっかけは、「リスク対策.com」主催の「危機管理カンファレンス 2020 秋オンライン」の第 1 日目で、本書のために組織されたワーキンググループの一人である蛭間芳樹氏の講演を聴講したことでした。「リスク対策.com」からはいつも新しい情報や気づきをいただいており、大変感謝しています。

 

合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

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書籍紹介『世界に通じる危機対応 ISO 22320:2011 危機対応に関する要求事項 解説』林春男(編集委員長)

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手前味噌ですが私自身が関わった書籍のご紹介です。

危機対応(緊急事態対応)に関する国際規格「ISO 22320」が 2011 年に発行され、その内容を変えずに和訳したものが日本産業規格「JIS Q 22320」として 2013 年に発行されたことを受けて、これを日本で普及させることを目指して作られた本です。ISO の委員としてこの規格の制定に参画された林春男先生に編集委員長をお願いし、一般社団法人レジリエンス協会の有志 7 名からなる「危機対応標準化研究会」にて執筆しました。

ISO 22320 は、効果的な危機対応を実現するために最低限考慮すべき事柄として、指揮・統制のあり方、危機対応に用いる活動情報処理のあり方、部局間・組織間の協力および連携のあり方、などについてまとめられた規格です。危機事象の種類(災害や事故など)や組織の種類(公的機関や民間企業など)にかかわらず汎用的に適用できる規格となっています。

この規格の JIS 化に合わせて本書を企画した問題意識については、林先生が「はじめに」で次のように述べておられます。

世界の先進国では,どのような種類の危機が発生しても対応可能であり,対応にかかわるすべての組織に共通する一元的な危機対応体制が採用されている.先進国の中では我が国だけが例外である.その原因に,従来の個別的な対処方法でもこれまで様々な種類や規模の危機を乗り越えてきたという成功体験があり,改める必要性が見いだせないことがある.しかし,今後予想される大規模災害を考えると,危機対応の標準化はレジリエンスの向上には不可欠であると考えられる.

 

本書の構成は次のようになっており、規格の内容は第 2 章で解説されています。

  • 第 1 章 危機対応に本当の専門家はいない
  • 第 2 章 ISO 22320 の解説
    • 4. 指揮・統制に関する要求事項
    • 5. 活動情報に関する要求事項
    • 6. 協力及び連携に関する要求事項
  • 第 3 章 規格は使わなければ意味がない
  • 第 4 章 ISO 22320 を現場に活かすには
  • 付録 ISO 規格開発手順

私自身は第 2 章の「4. 指揮・統制に関する要求事項」の執筆を担当させていただきました。また林先生に第 1 章と第 3 章の執筆をお願いしました。

本書全体を通して、単に要求事項の解説にとどまらず、これらを自治体や企業などの組織で実践するための留意点やヒントをできるだけ記述するようにしています。

特に第 2 章においては、規格の内容に基づく解説に加えて、具体例のひとつとして米国で標準的に採用されている「Incident Command System」(ICS)の要点を紹介しています。ICS は ISO 22320 よりも先に開発されたものですが、ISO 22320 の要求事項が概ねカバーされているので、この規格の要求事項を具体的にはどのように実現していくのかを考えるうえで、とても参考になります。

 

実は ISO 22320 が既に 2018 年に改定されており、規格の構成や内容が大幅に刷新されているのですが、この 2018 年版が JIS 化される予定は今のところ無いようです(2020 年 10 月時点での状況)。したがって本書も改訂される予定がありません。個人的には 2018 年版も早急に JIS 化されてほしいのですが…….。

 

【書籍情報】

危機対応標準化研究会(編著)(編集委員長 林春男)(2014)『世界に通じる危機対応 ISO 22320:2011(JIS Q 22320:2013)社会セキュリティ – 緊急事態管理 – 危機対応に関する要求事項 解説』日本規格協会。

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合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

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書籍紹介『大規模災害リスクと地域企業の事業継続計画』家森信善他(編著)

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本書は四部構成となっており、「第 II 部 事業継続計画(BCP)に関する企業意識調査」および「第 III 部 自然災害に対する中小企業の備えと、地域金融機関による支援についての調査」という 2 つの調査を中心として、第 I 部はこれらへの導入として背景事情の説明、第 IV 部はこれらの調査結果に対する各方面の有識者からのコメントという構成になっています。

第 II 部および第 III 部だけでも(私が申し上げるのもおこがましいですが)十分価値のある論文なのですが、さらに第 IV 部で様々な観点からのコメントが加わることによって、多くの新たな視点をいただけた本でした。

本書(および編著者らの一連の研究)の最大の特徴は、企業の事業継続にリスクファイナンスの観点からアプローチしていることです(注 1)。企業の事業継続にかかわるリスクファイナンスに関しては、詳しい解説やソリューションが多いとは言えない現状において、このような研究は貴重であり、私自身も勉強が必要だと思っている分野でもあります(注 2)。

第 II 部で は企業(特に中小企業)を対象としたアンケート調査の結果から、BCM に対する意識や取り組み状況などが分析されています。ここで示されている結果については、過去に行われた他の調査(内閣府やインターリスク総研、KPMG ビジネスアシュアランスなどによる実態調査)の結果と重複している部分も多いのですが、本書ならではのユニークな切り口もいくつかありました。

例えば、復旧のための資金源の重要性への認識と、BCP 作成状況との相関から、「(復旧のための資金源として)公的資金が重要だと思っている企業は BCP を策定していない」ことを見出した上で、「もし、公的資金での復旧に依存して、事前に BCP の策定が進んでいないとしたら大きな問題といえる」と指摘しています。大規模災害に対する無力感から、対策することを諦めてしまう企業が多いのではないかと思います。もちろん大規模災害から自力だけで復旧していくのは、どのような企業にとっても困難だと思いますが、各企業側でもできるだけ損失を軽減するための事前対策に取り組み、社会全体としての経済被害を少なくしていかないと、地域や社会全体としての復旧・復興の長期化を招きかねません。この部分に関しては企業に対する動機づけが急務なのではないでしょうか。

第 III 部の調査に関しては、地銀・信用金庫・信用組合の支店長に対して、融資先の BCM の状況に関するアンケート調査を行うというアプローチが画期的だと思いました(注 3)。金融機関の多くが融資先の BCM にあまり関心がなく、状況もよく把握していない(注 4)という現状は、実務経験を通して感じてはいましたが、これが具体的なデータで示されたことには大変重要な意義があると思います。このようなデータが、日本における BCM 促進のための政策立案などに活かされることを期待したいと思います。

 

本書に関して一点だけ残念なのは、一部の例外(注 5)を除いて、本来「事業継続マネジメント」もしくは「BCM」と表記されるべき箇所が、ことごとく「BCP」と表記されていることです。特に本書の重要なテーマであるリスクファイナンスに関しては、BCM の範疇で論じられるべきものです。このように有益な内容で、かつ様々な方面に影響力を持つと思われる本であるからこそ、このような基本的な用語は正しく使い分けていただきたいと思いました。

しかしながら一方で、この点について著者の方々を責めるのも酷だと思います。今のところ日本の産業界全体で、「BCP」という用語の誤用や、「BCP を策定すること」が目的であるかのような言説が横行しているのが現状です。 したがって本書における表記も、そのような現状に合わせるのが現実的であるという考え方もあり得ます。

そのような問題はあるにせよ、本書のユニークなアプローチを通して、単に「BCP を策定すること」にとどまらず、リスクファイナンスを含めた包括的な BCM に関心を広げていく方々が増えるのではないかと思います。そのような今後の広がりに期待したいと思います。

 

【書籍情報】

家森信善・浜口伸明・野田健太郎(編著)(2020)『大規模災害リスクと地域企業の事業継続計画 中小企業の強靭化と地域金融機関による支援』中央経済社。

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【注釈】

  1. 編著者の中で特に野田健太郎先生は、かつて日本政策投資銀行にて「防災格付融資」(現在の「BCM 格付融資」の前身)を開発された方であり、恐らく銀行在職当時から、この分野に関して問題意識を持っておられたのであろうと推察します。
  2. 私自身、損保会社のグループ企業で BCM のコンサルティングを担当していながら、リスクファイナンスに関して実践できたことは非常に限定的でした。この点はいまだに反省というか罪悪感に近いものを引きずっています。
  3. 東洋大学の金子友裕先生が、東日本大震災被災後の東北 6 県の税理士に対して、顧問先企業の倒産や復旧状況、および BCM に関するアンケート調査を実施した例がありますが、金融機関を対象とした調査は他に知りません。
  4. 金融機関の立場としては、融資先が災害などで倒産すると資金を回収できなくなるので、災害対策や BCM への取り組み状況を把握するインセンティブがあるはずだと考えられます。
  5. 例外として第 11 章では BCM に相当する箇所が「事業継続」と表記されて BCP と区別されていましたし、第 12 章では BCP と BCM が適切に使い分けられていました。

 

合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

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書籍紹介『阪神大震災 ― 日銀神戸支店長の行動日記』遠藤勝裕(著)

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本書は既に絶版となっているようですので、入手したければ古本をあたるしかありませんが、阪神淡路大震災における貴重な記録として大変価値のある本だと思います。震災発生当時に日銀の神戸支店長だった著者が自ら記録した内容を中心にまとめられた本です。

本書は 2 部構成となっていますが、阪神淡路大震災における対応の記録となっているのは第 1 部で、日本銀行の使命である通貨価値の安定と金融システムの安定を、震災直後の困難な状況においても完遂するために尽力された際の状況が、克明に記述されています。

全体で 187 ページある本書のうち第 1 部が 120 ページを占めており、そのうち 81 ページが発災当日(1 月 17 日)から 2 月上旬までの日銀支店長としての業務の記録となっています。このページ数を見るだけでも、本書における記録の詳しさを想像していただけるかと思います。

内容も、詳細かつ生々しく記述された文章に加えて、発災当日に手書きで作成された金融特例措置の通知文や、損傷銀行券の鑑定作業や金庫室内で散乱した札束を整理する作業などの写真など、多くの資料が収められています。

当時はインターネットも一般には使われていない時代でしたので、社会インフラの状況などは現在とは異なる部分も多いと思いますが、被災直後の行動や、必要となる物資などの問題に関しては、現在にも通じる教訓となる材料が豊富に含まれています。実は私自身も本書を古本屋で入手しましたが、手に入れられて本当に良かったと思えた本です。

 

【書籍情報】

遠藤勝裕(1995)『阪神大震災 ― 日銀神戸支店長の行動日記』日本信用調査株式会社出版部

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合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

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書籍紹介『BCM(事業継続マネジメント)入門』小林誠・渡辺研司(著)

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事業継続計画(BCP)や事業継続マネジメント(BCM)に関して、「入門者向けに何か良い参考書はありませんか?」と聞かれたら、私が迷わずお勧めする本がこちらです。

発行されたのは 2008 年ですので若干古いですが、内容は現在でも十分通用します。

もちろん、この本が出た後に BCM に関する ISO 規格(ISO 22301 など)が発行されたり、BCI や内閣府などから発行されている様々なガイドラインが改訂されたりしましたので、若干のアップデートは必要です。しかしながら、BCM に取り組む上で実務者として知っておくべき基本的な考え方は大きく変わっていません。したがって、まずこの本をお読みになって BCM の基本的な知識や考え方のベースを作ってから、他の本やガイドラインなどを読み進めると、勉強しやすいのではないかと思います。

この本は「第 1 章 BCM 総論」と「第 2 章 Q&A で知る BCM の実際」から構成されており、第 1 章は正味 32 ページ、全体でも 113 ページしかありませんが、BCM の概念を理解するために必要なことは、ひととおり網羅的に書かれています。

また第 2 章は、BCM に取り組み始めた方々が疑問に思うような典型的な質問 30 項目に答える形で、BCM の活動全般にわたって様々なノウハウが記述されています。この本を読むだけでは、BCP を作れるようにはならないと思いますが、まず BCM としてどのような活動が必要になるのか、自社においてどのあたりが難しそうか、などを把握することができると思います。

ところで、(私の独断ですが)本書の最大の特徴のひとつは、タイトルに「BCP」と書かれていないことだと思います。Amazon で検索していただければすぐ分かると思いますが、タイトルに「BCP」もしくは「事業継続計画」と書かれている本の数に比べると、「BCM」もしくは「事業継続マネジメント」と書かれている本はごく少数です。日本ではまず「BCP」を作ってから、それを維持管理するために「BCM」に取り組むと思っておられる方が多いこともあって、用語としても「BCP」の方が普及しています。本書は日本におけるそのような認識に対して、あえて本来の BCM の概念や方法論に忠実に書かれているため、タイトルに「BCM」を掲げています。2008 年に発行されて以来、いまだに通用するのはそのためです。

著者両名とも私が大変お世話になっている大先輩ですので、私が申し上げるのもおこがましいですが、BCM の概念や方法論を、これだけ網羅的かつコンパクトにまとめられた本は珍しいと思います。BCM に関する勉強を始める際には最初に読むべき一冊だと思いますし、実務者の方々も絶版になる前に手に入れておくことをお勧めしたいと思います。

 

【書籍情報】

小林誠・渡辺研司(2008)『BCM(事業継続マネジメント)入門(やさしいシリーズ 21)』日本規格協会

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合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

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書籍紹介『「感染症パニック」を防げ!~リスク・コミュニケーション入門~』岩田健太郎(著)

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著者の岩田先生が世間一般での知名度が急上昇したのは、2020 年 2 月にクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」にて新型コロナウィルスの集団感染が発生した時であったと思います(私もこの時に岩田先生のことを知りました)。岩田先生がクルーズ船内の状況を YouTube に投稿して話題になった後に、岩田先生が多くの著書を出されていることを知り、興味をもって読み始めたうちの一冊がこちらの本です。

タイトルに「感染症パニック」を防げ!と謳われてはいますが、本書に書かれている内容の多くは感染症対策に限らず、多くの分野におけるリスク・コミュニケーションに通用する話だと思います。

これまで私自身もリスク・コミュニケーションに関しては多くの書籍などで勉強してきましたが、それでも本書には私の知らない概念や考え方、手法などが含まれており、私自身がまだまだ勉強不足だったことを再認識する機会にもなりました。

例えば、リスク・コミュニケーションを「クライシス・コミュニケーション」、「コンセンサス・コミュニケーション」、「ケア・コミュニケーション」の 3 つに分類するという考え方は本書を読むまで知りませんでした(クライシス・コミュニケーションだけは従前から使っていました)。

また、「社会構成主義モデル」という用語も知りませんでした。これは著者によると「ある方法論と価値観でものごとをや方針を勝手に決めて、それを押し付けるのはよくない」という考え方なのだそうで、「多様な価値観を大切にし、各人の感情面や心情に配慮しながら」リスク・コミュニケーションをとるべきであると著者は説いています。これに関しても本書では分かりやすい例とともに解説されています。

本書は 2 章構成になっていて、分量的には第 1 章が 8 割近くを占めるのですが、第 2 章の「感染症におけるリスク・コミュニケーション《実践編》」では、実際に感染の流行が発生したエボラ出血熱、西ナイル熱、炭疽菌(バイオテロ)、2003 年の SARS、2009 年の新型インフルエンザ、2014 年のデング熱を題材として、判明した情報をどのようにまとめ、伝えていくかが具体的に解説されています。岩田先生ご自身の経験(失敗も含めて)に基づいて書かれた生々しい部分もあり、感染症対策におけるリスク・コミュニケーションの難しさがよく分かります。

そしてこの第 2 章に関しても、題材を他の分野における事象(例えば企業における不祥事など)に置き換えてみることで、どのようにリスク・コミュニケーションに取り組むべきかを考えるトレーニングになると思います。そういう観点も含めて、医学分野に限らず幅広い分野の実務者の方々にとって役立つ本なのではないでしょうか。

 

【書籍情報】

岩田健太郎(2014)『「感染症パニック」を防げ!~リスク・コミュニケーション入門~』光文社新書

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合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

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書籍紹介『もうひとつの新型インフルエンザ対策』中野明安(著)

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本書はタイトルに「新型インフルエンザ対策」と謳われていますが、感染防止策や感染者への医学的な対処方法は書かれていません。主に企業を対象として、法的な観点を中心に、新型インフルエンザ対策としてどのような準備や検討をしておくべきか、有事の際にどのように対処すべきかが書かれています。

2009 年に発生した新型インフルエンザの流行をうけて刊行された本ですので若干古いのですが、この記事を書いている 2020 年 4 月の時点で世界的に猛威を振るっている新型コロナウィルス対しても役に立つ内容が多いので、ここで紹介させていただきたいと思います。

本書は大きく次の 3 つの部分に分かれており、例えば「新型インフルエンザに感染したという従業員を出社停止とする場合、給料を支払わなければならないのか?」といったような疑問に対して、法的観点から解説されています。

  • 労務管理に関する法的問題
  • 取引・契約に関する法的問題
  • 経営に関する法的問題

解説されている疑問は全部で 50 問あり、企業において法的観点から検討すべき事項について、網羅的にまとめられているのではないかと思います。

なお、先日『リスク対策.com』でおなじみの新建新聞社様の主催により、「企業の新型コロナウイルスへの対応状況を問う ~アンケート結果の分析と法的課題についての対談~」というテーマでオンラインセミナーが開催され、本書の著者である中野明安先生が登壇されました。その際に、本書の内容が新型コロナウィルスにも適用可能かどうか質問したところ、次の 2 つに注意する必要があるものの、これら以外は大きく変わっていないとの回答をいただきました。

新型コロナウィルスの影響による従業員の在宅勤務や事業中断など、多くの企業において対応に苦慮されていると思いますが、少なくとも法的観点に関しては本書を拠りどころにできる問題も少なくないと思います。若干古い本ですので入手が難しいかもしれませんが、持っておくと重宝する本ですので、何とか探して入手されることをお勧めします。

 

【書籍情報】

中野明安(2010)『もうひとつの新型インフルエンザ対策』第一法規

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合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

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書籍紹介『被災したあなたを助けるお金とくらしの話』岡本正(著)

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著者の岡本先生は、東日本大震災で被災された方々に対して多くの弁護士の方々が対応された無料法律相談の事例(4 万件以上)を分析され、被災者の方々の生活再建におけるニーズの数値化・視覚化に尽力され、さらにはその結果を活かして慶應義塾大学など複数の大学で「災害復興法学」という講義を創設された方です。

岡本先生は災害復興法学に関して既に複数の著書がありますが、これまでの専門的な著書とは全く異なる新著が発刊されたので早速購入しました。

本書にはそのタイトルの通り、何らかの災害で被災された方々が生活を再建していくために必要な知識が書かれています。しかしながら、これは被災した後に読むのではなく、被災する前(つまり今)読むべき本です。

例えば「Part 2 貴重品がなくなった」という部分では、預金通帳やキャッシュカード、土地の権利証など、たいていの貴重品は、災害で紛失しても何とかなることが書いてあります。これを知っていれば、災害で避難する時に貴重品を探していたために逃げ遅れたり、避難した後に貴重品を取りに戻って災害に巻き込まれたり、といった事態を防ぐことができます。

これ以外の知識に関しても、被災してからこの本を読むのと、被災する前に一度でもこの本を読んでいたのとでは、災害からの立ち直りに向けての最初の一歩が断然違うはずです。

例えば「自然災害債務整理ガイドライン」という仕組みがあることをあらかじめ知っているだけで、災害で家財を失った後の心理的ショックが多少は小さくて済むかもしれません。

ですからぜひ「今」手にとって読んでいただきたい本です。

内容はもちろん、紙面のデザインや装丁も含めて、とても読みやすい本になっています。

目次はこちらのようになっています。目次からしてこの親しみやすさ!

被災者に対する生活再建のための様々な仕組みは、法律に基づいて作られており、支援を受けるためにはそれなりの手続きが必要なので、黙って待っていても受けられませんし、弁護士などの手助けが必要になる場合もあります。

しかし、このような仕組みがあることを知らなければ、誰に相談すべきか、どこに手続きに行くべきかさえ分からないかもしれませんので、こういう仕組みがあることを知る入り口が見えることはとても重要です。本書はまさに、被災した後に知る必要がある「入り口」が網羅的に示されていると思います。

なお、本書の中心的な話題は、法律として用意されている様々な制度を使って、いかに災害からの生活再建をあきらめずに、少しでも有利に進めていくための知識です。しかしながら携帯電話料金や公共料金、保険料などの支払い猶予措置など、必ずしも法律に基づいていない内容も含めて書かれています。ひとりひとりが災害から立ち直っていく力をつけるために、今のうちに読んでいただきたいと思います。

ちなみに著者の趣味は「街歩き、カフェ・スイーツ・珈琲巡り、ラーメン店探訪」だそうです。

 

【書籍情報】

岡本正(2020)『被災したあなたを助けるお金とくらしの話』弘文堂

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合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

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書籍紹介『3D地図でわかる日本列島地形図鑑』髙田将志(監修)

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地形に応じた災害リスクに関する理解を深めるために有用な本を見つけましたのでご紹介します。

第 1 章は「列島の地形とそのしくみ」で、日本列島に多く見られる様々な地形の特徴が解説されています。全て実在の地形を題材にしてカラーで図解されていて、とても分かりやすいです。

例えば河成段丘に関してはこんな感じ。

扇状地はこんな感じです。

続く第 2 章「列島の歴史」では、日本列島や各地の地形がどのように形成されたかが解説されており、さらに第 3 章「列島各地の地形」では、日本各地で特徴的な地形を持つ地域 28 ヶ所(例えば利根川流域、京都・奈良盆地、中央構造線など)が図解されています。

自然災害が発生するリスクは地形と深く関わっています。本書もそのような問題意識に基づいて、第 1 章の中に「災害にむすびつく地形」というセクションがあり、実際に自然災害による被害が発生した倉敷市真備町や広島市の八木地区などの地形が図解で解説されています。

本書で説明されている様々な地形やその特徴、災害リスクとの関連を理解できれば、もしお住いの地域が本書で直接解説されていなかったとしても、類似の地形に対する解説を参照することで、お住いの地域における災害リスクについて考える際に役に立つのではないかと思います。

また、かつて本サイトで紹介した次の書籍にも、災害に関連する地形に関する詳しい説明がありますので、本書と合わせて活用すると良いのではないかと思います。

 

【書籍情報】

髙田 将志(監修)(2019)『3D地図でわかる日本列島地形図鑑』成美堂出版

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合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

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書籍紹介『土地の「未来」は地形でわかる』渡辺満久(著)

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著者は変動地形学が専門だそうですが、私自身は「変動地形学」という分野の存在を、本書を読むまで知りませんでした。著者によると、「変動地形学を専門とする研究者が日本に何人いるか、指折り数えてみても、せいぜい 30 人程度」だそうです。

「変動地形」というのは現在進行で動いている、プレート運動による地殻変動が作った地形のことで、地殻変動によってどのような地形が形成されるかを扱う学問分野が「変動地形学」ということになります。なお変動地形学は「地質学」とは全く異なる学問分野だそうです。

本書の中心的な話題は活断層であり、活断層とはどういうものなのか、どのようにして形成されるのか、などを詳しく理解するために大変有用です。これまで活断層による地震がたびたび発生していることから、活断層という用語は広く知られていると思われますが、それがどのようなものかを具体的に知っている人は恐らく少ないでしょう。

著者によると、「日本周辺においては、最近の約 50〜70 万年前以降は(プレートの動きが)ほとんど変わっていない」ため、これ以降の時期に動いたことが確認できた断層は活断層だということになるそうです。したがって、数 10 万年前に洪水などで形成されたことが分かっている平坦な地表面を変形させるように存在している断層は、活断層であると判定できることになります。そのようなものであれば、ボーリング調査など行わなくても、航空写真などから判別できるそうです。

本書では、実際の地形に変動地形がどのように表れているか、どのように活断層を判別できるかが、いくつかの実例が写真や地形図などを使って説明されており、とても分かりやすいと思いました。

なお、ややこしいことに研究者によって活断層の定義が異なるとの事なので、例えばテレビなどで誰かが「活断層」について話しているときに、それが本書で説明されている「活断層」とは微妙に違うかも知れない、という可能性は知っておいたほうが良さそうです。

 

【書籍情報】

渡辺満久(2015)『土地の「未来」は地形でわかる』日経 BP 社

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合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

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