BCP」タグアーカイブ

「事業継続マネジメント(BCM)は中小企業には難しい」というのは誤解です

このエントリーをはてなブックマークに追加

本稿は、拙書『困難な時代でも企業を存続させる!! 「事業継続マネジメント」実践ガイド』(セルバ出版)の一部に手を加えたものです。

これまでのコンサルタントとしての経験の中で、中小企業の方々と事業継続マネジメントに関するお話をする機会が数多くありましたが、そのような場で「大企業のように人もお金も余裕のない中小企業にとっては、BCM に取り組むのは難しい」という声をよく聞きます。

ところが、これには典型的な誤解が 2 つ含まれています。

–   –   –   –   –

大企業には BCP に取り組む余裕がある?

1 つめの誤解は、「大企業には BCM に取り組む余裕がある」という点です。確かに大企業は多数の従業員を抱えていますが、一般的に企業としては収益を生む業務により多くの人員を投入したいため、総務や人事、経理などのいわゆる間接部門は非常に少ない人数で回している企業が多いものです。そのような状況では、BCM に関連する業務のために割ける人数も限定的になります。

私自身がこれまでにコンサルティングで関わってきた大企業でも、お客様側のご担当者はほぼ例外なく、他の業務のために多忙な中で BCM に取り組んでおられました。これはお金に関しても同様で、BCM のために十分な予算を確保しておられる企業は決して多くありません。

実は中小企業のほうが有利なこともある

2 つめの誤解は、「中小企業が BCP を作ることは大企業に比べて難しい」と思われている点です。実際は全く逆で、BCP を作るためのプロセスにおいては、大企業の方が作業量も多くなりますし難易度も高くなります。

詳しくは別の記事として後日まとめたいと思いますが、BCP を作るためには自社の製品またはサービスの提供が中断した場合の影響度合いを分析したり、事業再開における優先順位を決めたりする必要があります。また重要な経営資源に対するリスクアセスメントも必要です。大企業でこれらを実施する場合、多くの部署から様々な情報を集めて分析したり、意見を聞いたり、場合によっては部門間での調整が必要になったりするため、企業の規模などによっては数ヵ月かかることも珍しくありません。

一方で事業内容がシンプルな中小企業であれば、経営者を中心に主要なメンバーが集まって議論すれば、非常に短期間でこれらを済ませることができます。私自身の経験でも、前述のプロセスを 1 日で完了できた例が何度もあります。この点においてはむしろ中小企業の方が有利なのです。

なお、どこかから BCP の雛形を入手し、適当に自社の情報を書き込んで、とりあえず形式的にでも BCP を作ってしまうという方法もあります(そんないい加減な方法を勧めるのはいかがなものか?というご意見もあろうかと思いますが、この点については後日、別の記事で述べたいと思います)。この場合、前述のようなプロセスは必要ありませんので、BCP 作成の作業量や難易度は大企業でも中小企業でも同じです。しかしながら、大企業の経営層がこのような形式だけの文書を承認してくれるとは考えにくいので、このような観点からも中小企業の方が BCP を作りやすいと言えます。

–   –   –   –   –

特に中小企業の皆様におかれましては、このような誤解を払拭していただき、できるところから少しずつでも BCM に取り組んでいただければと思います。

–   –   –   –   –

本稿は、拙書『困難な時代でも企業を存続させる!! 「事業継続マネジメント」実践ガイド』(セルバ出版)の一部に手を加えたものです。是非拙書もお読みいただければ幸いです。


合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

このエントリーをはてなブックマークに追加

リスク対策.PRO セミナー「オールハザードアプローチ ~さまざまな脅威に対処できる BCP のあり方を考える~」

このエントリーをはてなブックマークに追加

本日は新建新聞社様が主催されている「リスク対策.PRO 会員向けセミナー』にて講師を担当させていただきました。

今回は「オールハザードアプローチ ~さまざまな脅威に対処できる BCP のあり方を考える~」というテーマでしたので、次のような内容の説明をさせていただきました。

  • 「ハザード」と「災害」(用語の意味と使い分け)
  • 「オールハザード」と「マルチハザード」
  • 政府の防災基本計画や自治体の地域防災計画はマルチハザードか?
  • 事業継続計画(BCP)はもともとオールハザード・アプローチ
  • 様々なハザードに対応するための緊急事態対応体制(Incident Command System を参照しながら説明)

私から 30 分程度説明させていただいた後、リスク対策.com 編集長の中澤さんの質問にお答えする形で、実務面での留意点などに関しても解説させていただきました。

今後もこのような機会を通して、事業継続に関する知識やノウハウの普及啓発を図っていきたいと思います。

 

合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

このエントリーをはてなブックマークに追加

YouTube> BCM においてリスクアセスメントはどんな風にやればいいのか

このエントリーをはてなブックマークに追加

YouTube の『事業継続マネジメントについて語りつくすチャンネル』に新しい動画をアップロードしました。

第 11 回: BCM においてリスクアセスメントはどんな風にやればいいのか

今回は BCM におけるリスクアセスメントの考え方や方法論について語っております。
第 9 回「目標復旧時間をどのように決めるか」および第 10 回「BCP では被害想定をどう使うか」とも関連の深い内容ですので、こちらと合わせてご覧いただけると、より腑に落ちやすくなるのではないかと思います。

《参考》

 

合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

このエントリーをはてなブックマークに追加

BCI 日本支部 2020 年度第 3 回定例会を開催しました

このエントリーをはてなブックマークに追加

一昨日、私が事務局を務めております BCI 日本支部の、今年度第 3 回の定例会を開催しました。

今回は「事業継続ソリューション」を主なテーマとしました。これは BCI の Good Practice Guidelines 2018 年版では PP4 の「Design」の段階で説明されているものです。さらに、前回同様に新型コロナウイルスに関する情報共有の時間も設けました。

開催報告は BCI の Web サイトに掲載されています。当日の説明に使用したスライドと、定例会の録画(動画)も見られるようになっていますので、ご興味がありましたら下記 URL にアクセスしていただければと思います。

https://www.thebci.org/news/bci-2020-3.html

(動画にアクセスするためには氏名とメールアドレスを入力する必要がありますが、BCI 会員でなくても視聴可能です。)

合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

このエントリーをはてなブックマークに追加

書籍紹介『大規模災害リスクと地域企業の事業継続計画』家森信善他(編著)

このエントリーをはてなブックマークに追加

本書は四部構成となっており、「第 II 部 事業継続計画(BCP)に関する企業意識調査」および「第 III 部 自然災害に対する中小企業の備えと、地域金融機関による支援についての調査」という 2 つの調査を中心として、第 I 部はこれらへの導入として背景事情の説明、第 IV 部はこれらの調査結果に対する各方面の有識者からのコメントという構成になっています。

第 II 部および第 III 部だけでも(私が申し上げるのもおこがましいですが)十分価値のある論文なのですが、さらに第 IV 部で様々な観点からのコメントが加わることによって、多くの新たな視点をいただけた本でした。

本書(および編著者らの一連の研究)の最大の特徴は、企業の事業継続にリスクファイナンスの観点からアプローチしていることです(注 1)。企業の事業継続にかかわるリスクファイナンスに関しては、詳しい解説やソリューションが多いとは言えない現状において、このような研究は貴重であり、私自身も勉強が必要だと思っている分野でもあります(注 2)。

第 II 部で は企業(特に中小企業)を対象としたアンケート調査の結果から、BCM に対する意識や取り組み状況などが分析されています。ここで示されている結果については、過去に行われた他の調査(内閣府やインターリスク総研、KPMG ビジネスアシュアランスなどによる実態調査)の結果と重複している部分も多いのですが、本書ならではのユニークな切り口もいくつかありました。

例えば、復旧のための資金源の重要性への認識と、BCP 作成状況との相関から、「(復旧のための資金源として)公的資金が重要だと思っている企業は BCP を策定していない」ことを見出した上で、「もし、公的資金での復旧に依存して、事前に BCP の策定が進んでいないとしたら大きな問題といえる」と指摘しています。大規模災害に対する無力感から、対策することを諦めてしまう企業が多いのではないかと思います。もちろん大規模災害から自力だけで復旧していくのは、どのような企業にとっても困難だと思いますが、各企業側でもできるだけ損失を軽減するための事前対策に取り組み、社会全体としての経済被害を少なくしていかないと、地域や社会全体としての復旧・復興の長期化を招きかねません。この部分に関しては企業に対する動機づけが急務なのではないでしょうか。

第 III 部の調査に関しては、地銀・信用金庫・信用組合の支店長に対して、融資先の BCM の状況に関するアンケート調査を行うというアプローチが画期的だと思いました(注 3)。金融機関の多くが融資先の BCM にあまり関心がなく、状況もよく把握していない(注 4)という現状は、実務経験を通して感じてはいましたが、これが具体的なデータで示されたことには大変重要な意義があると思います。このようなデータが、日本における BCM 促進のための政策立案などに活かされることを期待したいと思います。

 

本書に関して一点だけ残念なのは、一部の例外(注 5)を除いて、本来「事業継続マネジメント」もしくは「BCM」と表記されるべき箇所が、ことごとく「BCP」と表記されていることです。特に本書の重要なテーマであるリスクファイナンスに関しては、BCM の範疇で論じられるべきものです。このように有益な内容で、かつ様々な方面に影響力を持つと思われる本であるからこそ、このような基本的な用語は正しく使い分けていただきたいと思いました。

しかしながら一方で、この点について著者の方々を責めるのも酷だと思います。今のところ日本の産業界全体で、「BCP」という用語の誤用や、「BCP を策定すること」が目的であるかのような言説が横行しているのが現状です。 したがって本書における表記も、そのような現状に合わせるのが現実的であるという考え方もあり得ます。

そのような問題はあるにせよ、本書のユニークなアプローチを通して、単に「BCP を策定すること」にとどまらず、リスクファイナンスを含めた包括的な BCM に関心を広げていく方々が増えるのではないかと思います。そのような今後の広がりに期待したいと思います。

 

【書籍情報】

家森信善・浜口伸明・野田健太郎(編著)(2020)『大規模災害リスクと地域企業の事業継続計画 中小企業の強靭化と地域金融機関による支援』中央経済社。

Amazon リンク

 

【注釈】

  1. 編著者の中で特に野田健太郎先生は、かつて日本政策投資銀行にて「防災格付融資」(現在の「BCM 格付融資」の前身)を開発された方であり、恐らく銀行在職当時から、この分野に関して問題意識を持っておられたのであろうと推察します。
  2. 私自身、損保会社のグループ企業で BCM のコンサルティングを担当していながら、リスクファイナンスに関して実践できたことは非常に限定的でした。この点はいまだに反省というか罪悪感に近いものを引きずっています。
  3. 東洋大学の金子友裕先生が、東日本大震災被災後の東北 6 県の税理士に対して、顧問先企業の倒産や復旧状況、および BCM に関するアンケート調査を実施した例がありますが、金融機関を対象とした調査は他に知りません。
  4. 金融機関の立場としては、融資先が災害などで倒産すると資金を回収できなくなるので、災害対策や BCM への取り組み状況を把握するインセンティブがあるはずだと考えられます。
  5. 例外として第 11 章では BCM に相当する箇所が「事業継続」と表記されて BCP と区別されていましたし、第 12 章では BCP と BCM が適切に使い分けられていました。

 

合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

このエントリーをはてなブックマークに追加

YouTube> BCP では被害想定をどう使うか

このエントリーをはてなブックマークに追加

YouTube の『事業継続マネジメントについて語りつくすチャンネル』に新しい動画をアップロードしました。

第 10 回:BCP では被害想定をどう使うか

今回は BCP に関連して話題になることが多い、災害の被害想定について語っております。
前回の動画(第 9 回「目標復旧時間をどのように決めるか」)とも関連の深い内容ですので、合わせてご覧いただけると、より腑に落ちやすくなるのではないかと思います。

 

合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

このエントリーをはてなブックマークに追加

YouTube> 目標復旧時間をどのように決めるか

このエントリーをはてなブックマークに追加

YouTube の『事業継続マネジメントについて語りつくすチャンネル』に新しい動画をアップロードしました。

第 9 回:目標復旧時間をどのように決めるか

実務者の皆様からのご質問やご相談の多いテーマですが、特に日本企業に多い、大規模地震のような広域災害を想定して BCP を作成される際に、どのような考え方で目標復旧時間を検討していけばよいかを説明しています。

 

合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

このエントリーをはてなブックマークに追加

BCI 日本支部 2020 年度第 3 回定例会

このエントリーをはてなブックマークに追加

私が事務局を務めております BCI 日本支部で、2020 年度 3 回目の定例会を開催しますので、ぜひご参加ください。BCI 会員でない方々のご参加も歓迎します。

日時: 10 月 14 日(水)15:00-16:00
参加費: 無料
会場: オンライン(Webinar)のみ
参加申込締め切り: 10 月 12 日(月)

内容:

(1) 事業継続ソリューション(PP4)

Good Practice Guidelines が2013年版から2018年版に改定された際の最も大きな変更点のひとつが、従来「事業継続戦略」と呼ばれていたものが「事業継続ソリューション」に改められたことです。また、この変更はISO22301の改定(2019年版)にも影響を及ぼしています。
そこで今回は、事業継続ソリューションを検討・選択する際のポイントなどについて、Good Practice Guidelines 2018年版の内容をもとに解説します。またISO22301の2019年版における該当箇所との関係についても確認していきます。

(2) 上記 (1) に関する質疑応答・ディスカッション

なお上記に加えて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに関する情報提供や、参加者間での情報共有を行う可能性があります。これについては開催直前の状況や、その時点で入手できた情報に応じて、事務局にて検討させていただきます。

お申し込みは下記 URL からお願いいたします。
https://register.gotowebinar.com/register/6916193530550019085

当日の内容は録画し、後日 BCI の Web サイトに動画が掲載される予定です。

ちなみに前回(第 2 回)の記録はこちらでご覧いただけます。
https://www.thebci.org/news/bci-2020-2.html

第 1 回の記録もこちらでご覧いただけます。
https://www.thebci.org/news/bci-2020-1.html

 

合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

このエントリーをはてなブックマークに追加

Kenja(株)Web セミナーの動画が公開されました

このエントリーをはてなブックマークに追加

去る 7 月 30 日に開催されました「Kenja BCP WEB セミナーシリーズ」第 4 回『企業レジリエンス向上!BCP作成/運用3アプローチ』の動画が公開されました。

下のリンクからご覧いただければ幸いです。

https://youtu.be/lJZfT1EZ4II

 

合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

このエントリーをはてなブックマークに追加

note> BCP を「ISO 規格と同じように作らなければいけない」という誤解がいまだにある

このエントリーをはてなブックマークに追加

当サイトにアクセスされた方であれば、事業継続マネジメント(BCM)に関する国際規格として「ISO 22301」という規格があるのをご存じの方も多いと思いますが、この規格に関して重大な誤解をされている方がおられるようなので、少しでもそのような誤解を解消していければと思って文章にまとめてみました。下記リンク先よりお読みいただければ幸いです。

note: BCP を「ISO 規格と同じように作らなければいけない」という誤解がいまだにある
https://office-src.biz/2E46An2

 

合同会社 Office SRC 代表 田代邦幸

このエントリーをはてなブックマークに追加